ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【京都】太秦西光寺 平安の阿弥陀如来と令和の両脇侍

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1) 太秦西光寺の一般公開!

【寺院】西光寺(京都市右京区太秦多藪町)
【仏像】阿弥陀如来坐像(平安 重文)、両脇侍像(令和)。阿弥陀三尊の両脇に法然上人像と善導上人像
【公開日】2019年10月25-27日

 毎秋静かに開催されている京都浄土宗寺院特別大公開。今年ついに、太秦西光寺が公開された。

 阿弥陀様と法然上人をお慕いし、平安前期〜中期の仏像が好きな私にとって、見逃せないご開帳だ。

 西光寺は、法然上人がお亡くなりになられた後、嘉禄の法難の際に、法然上人のご遺体を7か月間、密かにお守りした場所にある。

 今回公開されたのは、太秦西光寺のご本尊で、9世紀後半の作とされる阿弥陀如来坐像だ。阿弥陀如来像は平安後期以降のものが多く、平安前期に遡る木彫仏は貴重である。しかも、太秦西光寺の一般公開は今回が初めて。貴重✖️貴重(貴重の二乗)というべき機会なのである。

 西光寺のご住職がTwitterに上げてくださったご本尊様の写真(↑上に転載)。この美しい阿弥陀様を脳裏に浮かべながら、夜行バスに揺られて京都に向かった。2019年10月25日の雨の朝、茅葺の小さな門の前にたどり着くと、なんと私が一番乗りだった。

2) 阿弥陀如来坐像

 重要文化財。95.1cm。9世紀後半。ヒノキの一木造り。背面から地付まで長方形の内刳りあり。

 お堂に入って見上げるなり、胸が熱くなった。
 まずは、全体に比して大きめなお頭が目を引く。大きくふくよかなお顔で、目を細め、優しく微笑んでおられる。

 螺髪のつぶも大きめで、肉髻部も大きなお山のように盛り上がる。眉は両目のかなり上に優しく弧を描き、形の整った鼻へとつながる。唇は静かに閉じる。

 斜め横からお顔を覗き込むと、目尻がこめかみに向かって伸びている。豊かな頬とその下の三道から、阿弥陀様の包容力を感じる。胸を張り出し、凛として座す。

 通肩で、弥陀の定印を結ぶ。現地でいただいた資料によると、「膝上で定印を結び、右脚を上に結跏趺坐する阿弥陀如来真言曼荼羅の中で祀られることが多いが、その阿弥陀如来像が浄土信仰の中で単独で信仰される対象になったと推測される」
 「また、大衣を両肩に掛ける通肩で定印を結ぶ阿弥陀如来像では、安祥寺五智如来坐像に次ぐ古い仏像であると推測されている。定印の阿弥陀如来像は、その後定朝様式の阿弥陀如来像のように大衣を少し方側に掛けるお姿に移行定着していく」
 「時代的には脚元の整理された衣から判断して、広隆寺講堂の阿弥陀如来坐像の特徴を継承するところが認められ、広隆寺阿弥陀如来像から少し経過した9世紀後半までに造仏されたものであると推測できる」

 平安前期の仏像は怖くていかめしいお像が多いが、こちらの阿弥陀如来様は、前述のとおり、静かで穏やかなところがあり、そこがとても素敵だと感じた。左肩から背面にかかる衣は、奈良宮古薬師如来坐像室生寺釈迦如来坐像に比べると、さほど立体的ではなく、控えめである。

 平安前期の量感がありながら、穏やかで気品あるお姿。その御前にずっと座って、見上げていたい阿弥陀様だった。

 弥陀の定印を結ぶ両手は、他の部分と比べるとやや雑な印象。後補なのか気になる。
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(↑写真はお寺で授与いただいたクリアファイル。両脇侍は黒く色付けする前のお姿だ)

3) 観音菩薩勢至菩薩

観音68.3cm、勢至67.8cm
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(↑山門に掲示されていた京都新聞の記事)

 両脇侍の観音勢至菩薩様は令和に入って完成した。西光寺が隣地で経営する保育園に子供を通わせていた堂本寛恵さんが製作。堂本さんは東京藝大大学院の文化財保存学彫刻室を修了後、結婚を機に京都へ移られた。仏像の彫刻や文化財模刻、保存修理を行う専門家である。

 ご本尊阿弥陀様が造られた平安前期を意識して、臂釧や瓔珞は金具とせず、彫り出す。生漆の上に錆漆を塗り、古式仕上げとした。瓔珞と臂釧のみに金を施し、立体感を出した。とても美しい。

 東京藝大で学ばれた本格的な技で造り上げた両脇侍は、平安の阿弥陀様と見事にマッチしていた。

4) 優しい住職による和やかなご開帳

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(↑今回のご開帳記念の特別ご朱印。右下に阿弥陀三尊、左上に嘉禄の法難の場面)

 西光寺様は、嘉禄の法難という厳しい歴史の場所に立つお寺。しかし、令和元年の一般公開を取り仕切った住職様は、こちらが腑抜けてしまうほどお優しかった。

 観音菩薩勢至菩薩を製作された仏師さんが当日お寺に来られ、製作の過程や裏話をスライドでお話しくださった。朝10時から始まった仏師さんの解説は、保育園に通う園児さんも一緒に聴講。住職様が「この人のお子さんも数年前まで太秦保育園に通ってたんですよ。みんなと同じや。みんなのお母さんと同じ、この人もお母さんなんやで」と園児さんに語りかけておられた。和やかな雰囲気に包まれた。住職様は、平安のご本尊もさることながら、新しい観音勢至菩薩と堂本さんを世に紹介したかったのだと思う。

 あたたかく和やかなご開帳。心より感謝申し上げたい。いつかまた拝観の機会に恵まれるよう願っている。

5) 参考資料

○西光寺ホームページ
西光寺公式ページ 京都市右京区太秦 西光寺 永代供養墓のご相談なら浄土宗 来迎山 西光寺(さいこうじ)
○西光寺について(浄土宗サイト)
西光寺 - 新纂浄土宗大辞典
○嘉禄の法難(浄土宗サイト)
嘉禄の法難 - 新纂浄土宗大辞典
○公開時配布資料
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