※2008年9月14日に書いた記事を再掲します。今日、山本勉先生の講義を受講したのですが、その時に、下記(4)の女性のお話を伺った記念です笑。現在も研究者としてご活躍されているそうです。素晴らしいお話で、感動しています!
テレビを観て、久しぶりに興奮した!
NHK bs-hiで9月8日に放送された『流転の運慶仏~“大日如来像”の謎を探る~』である。
今年3月にニューヨークでオークションにかけられた運慶工房の作品とされる大日如来坐像に関する番組だった。
ここ「ぶつぞうな日々」で何度か書いているが、これは大変美しい黄金の仏様である。東京国立博物館で何度もお会いしているが、決して飽きることがない。
それにしても、今回のテレビ番組になぜにこれほど感動し、興奮したのか。そのポイントを説明したい。
(1) まず、興奮したのが、この作品の発見から、運慶作品であることが解明されていく経緯を紹介するくだりである。
数年前に東京国立博物館で鑑定結果が発表され、その時に、鑑定結果をまとめた論文を読んでいたので、同じ栃木県足利市光得寺に伝わった同型の運慶作の大日如来像(以下「光得寺大日如来像」という)との比較や、レントゲン写真で確認される心月輪といった流れはすでに知っていた。
こうしたストーリー自体が興奮するものではあるが、論文で読んだときと違うのは、説得力のあるナレーションと音楽付きで解説され、人為的に臨場感が高められているという点だ。この演出にまんまとのせられたわけである。
また、この放送で、さらに多くの人が運慶のことを知ることになるという事実にも心が動かされた。それは嬉しいことでもあるが、自分の子どもを世に送り出すのに似た寂しさも感じられた。私は、なんとも愚かなことに、勝手にこの運慶作品を自分の子ども同様に考えていたのだった。
(2) 次に注目したのが、この作品の願主である足利義兼についてである。
足利義兼は源氏の武士で、北条時政の二女、つまり北条政子の妹を正室に迎えている。
静岡県の伊豆にある願成就院は北条時政が建てた寺で、不動明王と二童子の像や毘沙門天像など、運慶の会心の作品が残されている。つまり、運慶は若いときに関東に実際に滞在し、鎌倉の人間と会い、いくつか作品を残しているのである。
足利義兼は源頼朝のような歴史のスターではないが、こうした血縁から運慶に造仏を依頼できたのだろう。足利義兼がこの仏様にどのような願いを込めたのか。運慶と実際に言葉を交わしたのか。歴史への思いは募るばかりである。
(3) さらに、東京国立博物館の元学芸員で、今回の運慶作品の研究に携わった山本勉氏と、運慶の研究家の熊田由美子氏もテレビに登場した。
お二人の著作は何度も読み返しており、尊敬している研究者なので、とても嬉しかった。
西村公朝さんが亡くなられた今、このお二人にはもっとテレビに出て、仏像の宣伝をしていただきたい。
(4) お二人ほど高名な方ではないが、足利に住む女性の方が紹介された。若いときから仏像が好きで、近くのお寺にある仏像を大学の卒業論文のテーマに選び、古文書を調べたという。それが、光得寺の大日如来像だった。光得寺大日如来像は今から17年前、やはり山本勉氏の手によって運慶作品であることが判明したのだが、そのきっかけとなったのが、この女子大生の研究だったのだという。
なんというか、強く胸を打たれる事実だった。
私も地元にいつくか好きな仏像や石仏がある。奈良の仏像が好きで、奈良に生まれなかったことを悔やんだこともあったが、地元の仏像を愛する気持ちを大切にしようと改めて思った。そして、これからも仏像とその歴史について真摯に勉強していこう。とても勇気付けられるエピソードだった。