ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【新潟県】【展覧会】上越のみほとけ~「越後の都」の祈り~

上越市制施行50周年記念特別展
上越のみほとけー「越後の都」の祈りー
上越市立歴史博物館
2021年10月9日(土)~11月21日(日)
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 新潟県上越市の博物館で「上越のみほとけ」展を観てきた。飛鳥時代の金銅仏、奈良時代の木心乾漆仏に始まり、平安、鎌倉から江戸時代の木喰まで、上越市の仏像をクロニカルに紹介する展覧会。このように一つの地域にしぼって、ほぼ仏像だけを展示する展覧会に心からの敬意を表したい。人々の祈りが込められた仏像を通して、地域の歴史を見つめなおすことの意義は大きい。そして、仏像好きならもっと地方に目を向けなければと再認識した。
 以下、特にお気に入りの仏像を紹介したい。(※以下の番号は展覧会の作品番号を記す。写真は図録より)

4 ○ 大日如来坐像 木造 平安時代後期(十一世紀) 普泉寺

 展覧会場は2室あり、そこに30あまりの仏像が並ぶ。まず、第一展示室に入ると、普泉寺の胎蔵界大日如来坐像がどどんと目に飛び込んでくる。展覧会メインビジュアル(写真は↑)でもあるその尊容を実際に拝見すると、写真より全体に丸みがあり、どっしりしている。霊木を意識して彫り出した感じが伝わってきて、ぞくぞくする。
 のど元に丸い窪みがあるのが気になるが、図録によると、木の節の部分なのだという。「のど元にあらわれた樹木の節には、内側からみなぎるような自然のエネルギーを感じることができる」とあった。霊木仏に惹かれる私はこういうところに涙してしまう…。
 短く感想をまとめるなら、ポスター写真と本物とは詐欺じゃないかと思うほど違っており(※個人の感想です笑)、騙されたーという感じ。とてもよい騙されかただと思う。写真は見ての通りとても素敵なのだけど、実際の尊像はもっともっとウルトラスーパーに素晴らしかった!

5 ● 聖観音菩薩坐像 木造 平安時代後期(十二世紀)瑞天寺

8 ● 大日如来坐像 木造鎌倉時代(十四世紀) 田屋町内会

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150センチの聖観音坐像(瑞天寺)
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木目にどきどき。田山町の胎蔵界大日如来坐像

 ガラスケースのない露出展示は、上記の普泉寺の大日如来像と、瑞天寺の大きな聖観音菩薩坐像、そして、田屋町内会の胎蔵界大日如来坐像の3躯。木彫仏にしかない独特の感覚があり、同じ場所で同じ空気を吸い込むだけでも幸せ。
 瑞天寺の観音像はケヤキの坐像で、内刳りあり。151.0cmの大きな坐像が微妙に首を傾げるのが印象に残る。
 田屋町の大日如来はヒノキの寄木造り。ご尊顔の激しい木目にドキドキする。鎌倉時代14世紀の作と考えられているそうだが、慶派の系列とはまったく違う、素朴な感じが好印象。管理される町内会の方々がうらやましい。
 

2 如来坐像 木造 奈良時代(八世紀後半) 照行寺

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照行寺の如来坐像はなんと木心乾漆

 奈良時代の木心乾漆の像が上越にあるとは。肉付き豊かで、衣文が柔らか。真宗大谷派の照行寺に戦後に檀家から寄進されたもので、それ以前の来歴は不明なのだそうだ。近年のX線調査で、玉眼が嵌入されていたことが判明。現状は漆箔で覆われ、元の眼に戻されている。
 奈良の薬師寺と福島の能満寺にも同サイズの乾漆仏があることを思い出した。

3 ○ 十一面観音菩薩立像 木造 平安時代前期(十世紀前半) 個人蔵

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10世紀後半の美しい観音立像

とにかく美しい! 穏やかで上品なご尊顔。美しい頭髪の表現。ケヤキの一木造り。十一面観音とされているが、頭上面を付けた痕跡がないことから、聖観音だった可能性もあるのだとか。

15 ◎ 善導大師立像 木造 鎌倉時代(十三世紀前半) 善導寺

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妙なる念仏の声が聴こえてくる善導大師立像

 冒頭に書いた普泉寺の大日如来像の背後に、やたらと視線を送ってくる方がおられる、、と思ったら、こちらの善導大師像だった(※妄想が走ってしまってすみません、個人の感想です)
 阿弥陀如来像の追っかけをしていると、阿弥陀三尊の両脇に法然上人と善導上人がおられるのをよく見る。浄土宗寺院では、それがデフォルト状態と言ってもよいのではないかと思う。善導上人は腰から下が金色だったり(菩薩になる瞬間を表現)、お口が半開きだったり(お念仏をとなえておられる)という独特のお姿であり、浄土美術好きの間ではファンが多いと思う。私はもちろん大ファンだ。そんな善導上人像の中でも、特に優れたお像がこちらの善導大師像ではないだろうか。
 写真をご覧いただきたい。この口元から「なむあみだぶ~♪」という声が今にも聴こえてきそうだ。妙音なる念仏まで表現された木彫像だと私は断言したい! 
 仏像から音が聴こえると言うと、周りの人から心配されそうだが、別に私がおかしくなったわけではない(笑)。仏像から音が聴こえるということは確かにある。例えば、三十三間堂二十八部衆の中に、シンバルみたいな楽器を手にしたお像がある。そのお像のお顔は、美しい音色をいとおしく聴いている表情に彫られている。だから、そのお像を見る人にも、楽器の音色が聴こえてくるのだ! この善導大師像からもお念仏の妙なる節回しが聴こえるくるようだった。
 実は、この善導大師像には、さらに秘密がある。お口の中に小さな穴が残っているのだそうだ。空也上人像というのをご存知だろうか。口から小さな阿弥陀如来像を6つ吹き出したような形に作られたお像だ。南無阿弥陀仏と唱えたとき、その文字の一つ一つが阿弥陀仏になった、という伝承をビジュアル化したものだ。この善導大師像も、空也上人像のように、小さな阿弥陀仏がお口から飛び出していたのかもしれない。
 長々と書いてしまったが、本当に心惹かれる善導大師像である!

 他にも漆箔の神像や室町の仏像もよかったし、木喰もまとまって展示されていた。三十数体の仏像に興奮した。企画してくださった方々に感謝を申し上げたい。

【展覧会情報】

www.city.joetsu.niigata.jp

出品目録

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