ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【展覧会】和歌山県立博物館「仏像と神像へのまなざし―守り伝える人々のいとなみ―」

【展覧会】「仏像と神像へのまなざし―守り伝える人々のいとなみ―」
【会場】和歌山県立博物館
【会期】2019.4.27-6.2
【訪れた日】2019.04.30
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 はるばる出かけた甲斐があった。出展された仏像・神像の質と量もさることながら、「これまで受け継がれてきた仏像神像を今後どうやって守っていくのか」という大きな問題に真っ向勝負する姿勢。腹底から絞り出すようなその叫びが確かに聞こえた。私のような若輩ではすぐに解決策が見いだせない難問だ。その叫びを胸においたまま、これを書いている。

1)こんな展示構成でした

 展示はまず、明治初めの神仏分離廃仏毀釈による影響の例から始まる。
 続いて、明治30年古社寺保蔵法の施行などにより、仏像神像を「歴史の証徴」「美術の模範」として保護する制度が整えられたことを鑑査状の実物や新納忠之助の資料などで説明。
 さらに、こうした歴史を経て、和歌山県に伝えらた仏像神像が数多く展示される。全部で76体。このうち、国宝4体を含む40体が指定文化財。その質と量に興奮する。
 展示の最後に、和歌山で相次ぐ仏像神像の盗難被害と3Dプリンタによるお身代わり像の制作の例が紹介される。過疎化高齢化する地方でどうやって仏像神像をお守りしていくのかーー。学芸員大河内さんの叫びが聞こえてきた。

2) 地方仏の問題は日本全体の課題!

 地方の仏像を訪ねていると、貴重な仏像が過疎化高齢化する地元の人々によって守られている現実を知り、日本の未来を案じることもしばしばある。この和歌山県立博物館の展覧会はそうした現実に直球勝負するものだ! そこがこの展覧会の肝だと思う。

3) 撮影可能というぜいたく。そして、図録は買おう。

 なお、会場内の展示資料は、ごく一部を除き、撮影可能。SNSへの個人的な投稿もOKとなっている。私は最初に図録を購入し、図録写真とは別の角度から、私なりの目線でいくつか撮影させていただいた。こんな幸せがあるだろうか。耳のアップとか、瓔珞だけとか、足元だけとか、そんなマニアックな撮影が楽しい! そして、勉強にもなる! 図録の解説を読めば、帰ってから復習もできる!
 会期後半だったろうか、大河内さんが、図録販売が伸びないのは撮影可能にしたせいだろうか、と嘆いておられた。私は言いたい。写真を撮るだけ撮って図録を買わないとは、言語道断である。某政治家のように「恥を知りなさーい!」と一喝したいところだ。撮影可能にした意味がお分かりでない人、そして、図録購入が今後の和歌山県博の活動にプラスになると気づかない人、そんな人は、仏像ファンとは認めないですわよ。

4) 印象に残った仏像は

 質も量も半端ない展覧会だったが、個人的に特に印象に残ったお像をご紹介したい。

4-1) 有田市円満寺 十一面観音立像(奈良時代中頃~後半 重要文化財 113.8㎝)

 1998年奈良国立博物館で開催された「天平」展の図録を最近よく眺めているのだが、その中にこの十一面観音像もあった。円満寺への行き方を調べているところで、本展にお出ましと気づいた。写真で何度も観た憧れの観音像にお会いでき、感無量である。
 飛鳥時代を思わせる衣の左右対称なところ、少し厳しめのご尊顔、そして、豪華な胸飾りにときめいてしまう。瓔珞は「東大寺唐招提寺天平彫刻との類似」(図録より)が指摘されているのだそう。また、「肉身部の金箔は後補で、当初は素木で仕上げた、代用材による檀像彫刻の貴重な残存事例」(図録より)とのこと。動きが感じられず硬い印象はあるが、そんなところも上品で魅力的に思えてくる。かわいい!

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胸飾に注目!
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円満寺十一面観音 全身

4-2) 印南町・名杭観音講 十一面観音立像(平安9-10世紀 県指定文化財 141.7㎝)

 一目見たら忘れらない重厚なお像である。平安前期の観音像をガラスケース越しながら、間近で拝めむことができた。しかも、360度(さんろくまる)である。法量より大きく感じた。
 図録では、舌状の垂髪について、和歌山市・慈光円福院の十一面観音立像(9世紀末~10世紀初頭)との類似性が指摘されていた。慈光円福院の観音様も平安前期の強烈な印象のお像だったことを覚えている。
 名杭観音堂は昨年9月の台風で屋根に被害が及び、それを契機に、保存と継承のためにできることを検討し、今回の出陳にいたったとのこと。この観音像はなんとしても守らなければ。クラウドファンディングに協力することぐらいしか思いつかないことが歯がゆいが、私のような人間でも未熟ながら一助となりたい。そして、そのように考えるのは私だけはないはずだ。

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名杭観音講 十一面観音立像ご尊顔
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名杭観音講 十一面観音 どうしてもこの角度で撮りたくなる

4-3) 有田川町・法福寺 観音菩薩立像と地蔵菩薩立像(平安10世紀、町指定文化財 観音113.0cm 地蔵98.9cm)

 尖らせたくちびると旋転文がたまらない。法福寺は阿弥陀如来像と二十五菩薩像もおられる(2013年「極楽へのいざないー練り供養をめぐる美術ー」岡山県立博物館に出展)。いつかお参りしたい。
 

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法福寺の観音像 突き出したくちびる
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法福寺観音立像 旋転文がたまりません
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法福寺・地蔵菩薩立像 くちびるが観音像と似る

4-4) 海南市・善福院 薬師如来立像(平安12世紀 市指定文化財 95.2cm)

 千葉県いすみ市の行元寺で定朝様の阿弥陀如来立像にお会いしてから、定朝様の立像が気になっていた。解説に「顔も肩も丸く、お腹はぽっこりと出て緊張を解いた姿。これぞ定朝様式の美のかたち」とあり、それを何度も読み返してしまった。こういう直感的な解説、私にはとても分かりやすい。この緊張を解いたゆるやかなお姿に癒される。

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海南市・善福院 薬師如来立像

4-5) 所有者不明 阿弥陀如来坐像(平安10-11世紀 55.8cm)

 和歌山県では2010年から翌年春にかけて、山間部の小さな寺院・神社を中心に仏像などの盗難が頻発。その数は、警察に被害届が出ているだけでも60件(仏像172体以上)に及ぶ。2011年4月に窃盗犯が逮捕され、犯人の手元にあった盗難品は押収し、仏像の一部は古物商から回収したものの、依然として43点(破片も含む)が所蔵者不明なのだという。この阿弥陀如来坐像もその一つで、今は和歌山県立博物館が保管している。悲しい。
 肉髻と地髪部の段差が緩やかなところが特徴で、一目で胸がきゅんとした。平安時代中頃、10世紀末から11世紀初めごろの作風。台座の框に「建立者野上下津野出生当寺現住真性 施主当村喜兵衛」などと記載あり。
 どうか本来の所有者が見つかりますように。

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肉髻の段差が不明瞭で、ニット帽をかぶったように見える
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所蔵者がみつかりますように

 他にもたくさん気になる仏像・神像が出展されていた。写真もたくさん撮ったのだが、今日はここまで。また気が向いたら、写真を追加できれば。

5) 最後に。解決策を探すのは難しいけど、これからも考えたい

 展示会場に、感想や仏像を守るためのアイデアを書いて貼るコーナーがあった。何と書けばよいのかわからなかったが、普段思っていることを書いてみた。
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 うーん、難しい。字も下手だ。夜行バスで到着したばかりで、頭が動いていなかったと言い訳しておこう。しかも、なんだか後ろ向きのコメントだ。
 でも、これを書いている今(7月18日)、とても前向きな気持ちになっている。それは上にも書いたように、仏像を守りたいと思っている人が私だけではないと信じられるからだ。これからも考え続けたいし、役に立てることがあれば協力したい。
 そう思えるようになったのはこの展覧会のおかけだと思う。とてもよい展覧会だった。最後に、その旨を改めて申し添えたい。