ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【展覧会】国宝聖林寺十一面観音 三輪山信仰のみほとけ~360度の拝観で泣く暇なし!~

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「国宝聖林寺十一面観音 三輪山信仰のみほとけ」
東京国立博物館特別5室
2021.6.22-9.12

 聖林寺奈良県桜井市)の麗しき十一面観音様が初めて東京へいらしゃる。そうお寺で伺ったのが2019年5月。2年間待ち続けた展覧会がついに開幕した。行く前日の夜からすでに感極まって涙ぐんでしまい、寝不足のままお会いしてきた。

国宝十一面観音菩薩立像(奈良県桜井市聖林寺

 聖林寺の十一面観音は、奈良の三輪山をご神体とする大神神社の神宮寺、大御輪寺の本尊だった。明治初めの神仏分離に際して聖林寺に移されたのである。
 天平時代、8世紀の木心乾漆造り。像高209.1センチ。和辻哲郎白洲正子らが絶賛した麗しきお像である。
 お寺では、ガラス越しに少し遠めからしか拝観できない。それでも、その凛とした立ち姿に身もだえしてきた。今回初めて、お姿を360度全方向から拝見できた。もうあまりにうれしくて、夢中で見入ってしまい、泣く暇さえなくなってしまった!
 360度何度もぐるぐるまわって気づいたことがある。一言でまとめると、本当に凛々しい! そして、普通ではないということだ。特に気になったのは、胸と背中が異様に盛り上がっていることだ。側面と背面を見ると、それがよくわかる。當麻寺金堂の弥勒菩薩坐像に負けないぐらい胸が前面に張り出している。そして、背中の上のほうも同じぐらいに膨らんでいる。その一方、みぞおちから下の辺りはぎゅっと細くなる。そして、下っ腹は少し膨らんでいる。
 私は最近坐禅をしており、呼吸の練習をしているためか、この観音様はどういう呼吸の仕方をしているのか気になった。会場で思い出したのは、西村公朝さんが「息を吸いつつ、吐いている」と書いてらしたたことである。帰宅し、昔の本を引っ張り出してみると、正確には、公朝さんは次のように書かれていた(注1)。

理想的な人体を堂々と表現し、息を吸っているところを肩で、吐いているところをみぞおちで表している。釈尊がしていたアナパーナサチという呼吸法で、清浄な空気を肺に取り込み、静かに時間をかけて吐き出す。この呼吸法をこの像がやっている。

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西村公朝『よくわかる仏像の見方 大和路の仏たち』(小学館 1999年)より


 引用しておいてなんなのだが、アナパーナサチというのは正直、今の私にはよくわからない。しかし、尊敬する公朝さんがこの観音様を拝して、その呼吸を感じられたことだけはわかった。
 素人の立場で感じることは、とても独特な表現なのではないかということである。異様な強さを与えるため、このようなお姿に造ったのではないだろうか。
 そういえば、お顔も実にいかめしい。そこら辺の観音様とは違って(?)、優しく微笑んでくれたりはしない。
 でも、だからこそ、私たちはその堂々たる凛々しさに惹かれるではないだろうか…?? これは神仏習合と関係があるのだろうか...???
 本展は9月まで続くので、そんな疑問をいただきつつ、何度かお会いしに行きたい! お会いするたびに新たな発見と疑問がありそうだ!!

国宝地蔵菩薩立像(奈良県斑鳩町法隆寺

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写真は本展覧会の図録より

 大御輪寺の本尊十一面観音の左右には地蔵菩薩立像と不動明王坐像がまつられていた。地蔵菩薩像は聖林寺へ移されたあと、1873年法隆寺にわたった。今は法隆寺の大宝蔵院におられる。つまり、この展覧会では、十一面観音様と地蔵菩薩様が150年ぶりの再会を果たされるのである。これを泣かずにおられようか...!
 この地蔵菩薩像は平安時代9世紀、一木造りの木彫仏。像高172.7センチ。量感あふれ、鎬の立った衣文が際立つ。それでいて、お顔は丸くお優しい。これほど魅力的な地蔵菩薩像があるだろうか。
 法隆寺の大宝蔵院では、玉虫厨子の近くの狭いガラスケースの中におられるが、本展ではなんと、ガラスケースなしでの展示となっている! 心なしか、地蔵菩薩様がのんびりゆったりとしているように感じられた!! 法隆寺では、近くの玉虫厨子ばかりが注目されがちなのが気に入らないのだが、この展覧会ではその心配もない(笑)。なんともありがたく、この地蔵菩薩像を強く推したい私である。
 できれば、大御輪寺におられた頃のように、十一面観音様と横並びのところを拝見したかった。


 展示会場には、三輪山信仰と日本の自然信仰についての解説もあり、そちらもぜひ注目したいところだ。本展はもともと、昨年の東京オリンピックの時期に開催される予定だった。日本の自然信仰の美しさを世界に示す好機だったと思うので、インバウンドの観光客が呼べないことだけが残念である。

写真

1枚目=本展覧会の図録の表紙。『特別展 国宝 聖林寺十一面観音ー三輪山信仰のみほとけ』(2021年)(c)2021-2022東京国立博物館奈良国立博物館読売新聞社(表紙の十一面観音様の写真は佐々木香輔氏!)
2枚目=西村公朝『よくわかる仏像の見方 大和路の仏たち』(小学館 1999年)より
3枚目=図録『特別展 国宝 聖林寺十一面観音ー三輪山信仰のみほとけ』(2021年)(c)2021-2022東京国立博物館奈良国立博物館読売新聞社より(法隆寺地蔵菩薩像の写真は森村欣司氏)