浜松市美術館
みほとけのキセキ-遠州・三河の寺宝展-
令和3年3月25日(木)~4月25日(日)
「みほとけのキセキ」という、なんとも物騒なタイトルの展覧会である。この仮名表記が私は気になってしまう。ひらがなの「みほとけ」は美しい。数年前の仁和寺展あたりから浸透した表記だと思う。しかし、なぜに「キセキ」がカタカナなのか。スガシカオか? 夜空ノムコウ?
「みほとけの奇跡と軌跡」なら、私のような捻くれ者でもすっと理解できる。カタカナにしてしまうと抽象的になってしまう。展覧会のタイトルとして、非常識だ!
しかし、実際に会場を訪れると、展覧会自体が非常識極まりなかった! ゆったりスペースを取って仏像を配置し、しかも、すべて写真撮影できるのである!
仏像を出陳された寺院の中には、お寺での仏像の撮影が可能なところもあり、実際に私も撮影させていただいたことがある。しかし、この展覧会では、お寺では拝めないお背中の撮影もできてしまう。幸せをかみしめながら、お背中を見上げてきた。摩訶耶寺の千手観音立像、普門寺の伝釈迦如来坐像と阿弥陀如来坐像がそれである。携帯電話での撮影ではあったが、変な汗をかいた。間近で拝し、写真を撮ることへの畏れ多さを感じたのだと思う。
会場内には、仏像に馴染みのない一般の人に向けて、易しい言葉で解説がある。一方、図録には仏像に関する専門的な論文が掲載されており、写真も豊富だ。仏像に詳しい人もそうでない人も存分に楽しめるような配慮がある。
地域限定の仏像展であるという点もありがたい。仏像を通して地域の歴史を知ることができるからだ。
私が大好きなのは、普門寺の阿弥陀如来様だ。2階の会場に入った瞬間に、伝釈迦如来像とお並びで目の中に入ってきた。おいおい、心の準備をさせてくれよ、と思った。お隣の釈迦如来像が絵にかいたような端正な容姿であるのに対し、阿弥陀様はお顔の輪郭がぼてっとしていて、耳の下が外側にはねている。そこが好き。下から見上げている私は恋する乙女以外の何者でもなくなってしまう。摩訶耶寺の千手観音立像は一つのスペースに1点展示で、360度から拝観可能。ピュアでイノセントなお姿に打ちのめされる。長楽寺の馬頭観音像は初めてお会いしたと思うのだが、写真で見ていたより、お顔の表現がずっと立体的で力強く、とても良いと思った。
結論。夜空ノムコウは名曲だ。「みほとけのキセキ」展は仏像の展覧会の夜空ノムコウだ。