床に突っ伏して妄想拝観
3月半ばのある夜。洗濯物を干さないといけないのに、疲れて床(ゆか)に倒れたまま、立ち上がれなくなってしまった。なんだかつらい。そういえば、去年の春のお彼岸は三連休だったのに、大阪で感染者が急増したというニュースが入り、関西への秘仏の旅を直前にキャンセルしたのだった。今年は緊急事態宣言が長引き、はなから諦めていたのだが、この時なぜか急にせつない思いが込み上げてきた。
この混乱と苦しみはいつ終わるのか。洗濯機は仕事を終えて止まっているのに、私には立ち上がって洗濯機まで歩く力が湧いてこなかった。
要するに、眠いし、疲れていた。できることは妄想だけ。カーペットに突っ伏して、半分うとうとしながら、十一面観音立像を巡る旅をしてみた。緊急事態宣言だろうがなんだろうが、私の妄想を止めることはできないのだ。
妄想拝観は地理的制約を受けない。瞬時にお寺からお寺へと移動できる。北海道から九州まで縦横無尽に美仏を堪能した。とにかく、平安の十一面観音立像を巡りたいのだ!
さっき携帯電話の中を探ってみると、その時のメモ書きが残っていたので、ここに自らの赤恥を晒してみる。春先の夜、うとうとしながら、私の脳裏によぎった十一面観音菩薩様たち。よろしければ、皆様も思い浮かべてくださいませ。
妄想拝観
平安の十一面観音立像巡礼
旅した日=2021.3.17
法華寺→嵯峨遍照寺→北海道苫前→當麻寺織姫→長野千曲智識寺→横浜弘明寺→城崎温泉寺→斑鳩勝林寺(奈良博)→島根安来清水寺→岐阜美江寺→福岡鞍手長谷寺→再び奈良の法華寺→六波羅蜜寺本尊→尾道浄土寺本尊→和歌山慈光円福院→薬師寺(東博)→白洲正子旧蔵→河津善光庵→秋田小沼神社→四国のどこだっけ→奈良の法輪寺→羽賀寺→聖林寺→また法華寺
…と奈良の法華寺に3回お参りしたところで、私は力尽きた…。
(↑ 智識寺)
(↑ 慈光円福院)
(↑ 善光庵)
妄想旅を振り返って
今、見返してみると、素敵な観音様ばかりで、つい口元がゆるんでしまう。少しだけスッキリした頭で、少し補足したい。
1)「四国のどこだっけ」は、翌朝検索してみたら、愛媛県松山市の太山寺だった。平安の十一面観音立像が6躯。堂内の大きな厨子に3躯ずつ安置される。仏像リンクのオフ会でお参りした記憶あり。下記サイトに「後冷泉天皇以降の歴代天皇が勅納の仏像」とあるが、天皇直々というのも納得できるほど、pureでinnocent でgracefulなお姿であられた。日本語にしにくいのだが、うぶで無垢で優しい気品に満ちていた…と言えるだろうか。いやいや、つまりは、私の語彙力では表現できない感動なのであった。
木造 十一面観音立像 6躯 松山市公式スマートフォンサイト
2) 平安仏で埋め尽くそうと思ったのに、北海道苫前の観音様だけ鎌倉仏。死ぬまでにどうしてもお会いしたいので、確信犯的に組み込んでしまった。私は北海道生まれだが、苫前町は聞いたことがなかった! とんでもない僻地(苫前の皆さんごめんなさい)にこのような美仏がおられるとは。羨ましくて涎が止まらない!
木造十一面観音立像 文化遺産オンライン
3) 法華寺が3回入っているのはタイプミスではない。妄想拝観では何度でも拝観が可能なのだ!
4) あ、聖林寺は平安仏ではなく、天平仏? まあ、いいか、大好きだから。
5) よくよく見直すと、うとうとしながら思い浮かべていたのにメモに残っていないお像があることに気づいた。会津の明光寺のかわいらしい十一面観音立像が入っていない。寝ぼけてたので、お寺の名前を思い出せなかったのかも。兵庫や大阪、福井などの十一面観音立像も思い浮かべてたのに、お寺の名前が思い出せない。調べ直して、第二弾の妄想拝観ツアーを断行せねば。
はぁー、妄想旅楽しい! でも、少しずつでも現地でお参りしたい!!
※ 写真はすべて許可を得て筆者撮影