ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【千葉】「清水寺の仏像」展(いすみ市歴史資料館)観音像の残欠から全体像を想像しよう!

千葉県いすみ市郷土資料館の企画展
清水寺の仏像~坂東三十二番札所の歴史と美術~」(2019年2月23日~4月14日)
拝観日=2019年3月9日

展覧会の概要

 坂東32番札所である音羽山清水寺いすみ市岬町)は1000年以上の歴史をもつ古刹。本展覧会は、2017年に文化財調査を行った天台宗南総教区研修所の協力により実現。これほど多くの資料が寺外で公開されるのは初めて。
 出展された仏像は、清水寺秘仏本尊の前立千手観音立像(鎌倉時代)、二十八部衆立像のうち現存する24躯すべて(市指定文化財鎌倉時代)、奥の院本尊の十一面観音立像(県指定文化財鎌倉時代)、景清御身代観音と呼ばれる十一面観音の残欠(市指定文化財平安時代)、そして、銅造の聖観音立像(室町)である。
 すべてガラスケースでの展示ではあるが、ほどよい照明のもと、間近で拝観できる。

十一面観音さまの残欠(市指定文化財

 本展示で私が特に惹かれたのは、十一面観音さまの残欠である。

十一面観音像(景清御身代観音)(市指定、平安)
木造 素地 彫眼 頭部残欠30.8cm 右腕73.8cm 左腕75.2cm
f:id:butsuzodiary:20190313073940j:plain
f:id:butsuzodiary:20190313074026j:plain
 写真のとおり、全体像は残っていない。頭部と両腕が残るのみ。
 この欠仏さまを拝するために、いすみ市まで出かけた。頭部の写真を拝見し、それに引き寄せられてしまった次第である。

 展覧会場では、ガラス越しであるものの、ほどよい照明のもと、間近でよく拝める。

 少し歪んだお顔は静かに微笑んでいるようだ。頭頂の化仏は面相を表さない。シンプルな造形が想像をかき立てる。

 頭部のすぐ隣に、二つの腕が置かれている。この頭部と両腕を目の前にした瞬間、私の脳内で、十一面観音の立像がすくっと立ち上がった! 目の前の残欠から、失われた胴体や脚部を想像し、在りし日の全体像がおぼろげに浮かびあがるように感じた。鳥肌が立つような感覚だった!

 天台宗南総教区研修所の調査報告書が会場で販売されていたので、それを購入し、読みながら拝観した。私なりにまとめると、以下のようになる。

 「この観音の頭部は小鼻を表現せず、目の付け根の高さがずれているなど、プリムティブな造形。同様のプリムティブな例として、木更津市金勝寺聖観音立像(平安後期・市指定文化財)と館山市那古寺千手観音立像(平安後期・市指定文化財)があるが、本像はそれよりも原初的。秋田県小沼神社の聖観音立像、神奈川県宝城坊の鉈彫り薬師三尊の脇侍菩薩像に似る。ついては、本像は本格的な平安仏の造形が房総に伝わる以前の制作ではないか。

 右腕は頭部と同じ榧材。左腕は杉材と見られ、後補と考えられる。肩に穿たれた孔から、右腕が前に出て、左腕は垂下していたと見られる。この形から、千手観音ではなく、十一面観音だったと推測される」

 かっての自分であれば、こうした原初的な造形にはあまり惹かれなかったかもしれない。好みの変化というものがあるのだろうか。不思議である。

十一面観音立像(県指定、鎌倉中期)

木造 素地 玉眼 110.3cm 榧の寄木造り 
f:id:butsuzodiary:20190314224358j:plain
 清水寺奥の院の本尊で、四臂の十一面観音さまだ。衣文は肥後定慶に似るが、お顔はつり目で独特。山武市蓮台寺の十一面観音さまの方が肥後定慶に近いのだそうだ。会場では、京都の大報恩寺の十一面観音さまの写真が参考用に掲示されていた。
 見比べると確かに、こちらの観音さまは衣文は翻っているものの、お顔や全体の印象は大報恩寺像よりおとなしめで、かわいらしいと感じた。

御前立千手観音立像(鎌倉中期)

木造 古色 玉眼 47.0cm  榧材 秘仏本尊の御前立
f:id:butsuzodiary:20190313143424j:plain
 本展のメインビジュアルになっている観音さま。清水寺は勝軍地蔵菩薩毘沙門天二十八部衆風神雷神と、京都の清水寺と同じ構成であるのに、こちらの前立の千手観音さまは清水寺式ではないのが気になった。秘仏本尊さまはどのようなお姿なのだろう。

二十八部衆(市指定、鎌倉)

24躯が残る 木造 古色 彫眼 35.5~42.9cm  榧

 小像ながら、鎌倉らしい生き生きとしたお姿だった。
f:id:butsuzodiary:20190316092425j:plain
那羅延堅固王。「背面まで手を抜かない力作」と解説があった。

f:id:butsuzodiary:20190314225408j:plain
 難陀龍王。「情けなげな表情が楽しい」との解説文は展示会場にも掲示されており、つい吹き出してしまった。那羅延堅固王と比べると、こちらは腰もひけていて…。

f:id:butsuzodiary:20190314230032j:plain
 満善車王。このヘアスタイルがたまらない。迫力ある造形に仏師の力量が伺える。

銅造聖観音立像

 室町時代15世紀の作とみられる小さな銅像。体全体に残るバリが印象的。写真がないのが残念。

出展されなかった仏像

 清水寺には、勝軍地蔵菩薩愛宕権現)立像と毘沙門天立像(各60.8 cm 、70.2cm ともに1857年)もおられるそうだ。本展覧会にはお出ましでなかったので、いつか拝観の機会を待ちたい。特に、勝軍地蔵菩薩の立像には関心がある。京都の清水寺と同じ構成であることも興味深く感じた。

参考資料

『南総天台の仏像・仏画 II 星応寺・圓頓寺清水寺』(天台宗南総教区研修所 2018年)
f:id:butsuzodiary:20190314233136j:plain
 写真の左が、冒頭に記載した2017年の調査記録である。表紙写真は清水寺二十八部衆五部浄居天)で、本展覧会に出展されている。
 『南総天台の仏像・仏画 I』『南総天台の仏像・仏画 II』とも、写真が豊富で、ていねいな解説もわかりやすい。詳しく勉強されたい方にお勧めします! 各1000円。私はいすみ市郷土資料館で購入。

写真キャプション

 本ブログ記事の写真は、県指定文化財の十一面観音像をのぞき、上記参考資料からの転載。県指定の観音さまの写真は展覧会チラシより。