ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【石仏】徳本名号塔をめぐる~八王子編4~(寺田町)

八王子市・徳本上人名号塔 No. 11) ~寺田町路傍~

 八王子市の徳本名号塔 11番目として、寺田町で見つけたものをご紹介したい。

場所 八王子市寺田町(中寺田の美代田橋近く)
造立年 文政6年(1823)
銘文 正面=南無阿弥陀仏 徳本、右=文政六年癸未、左=七月吉日村講中(注※1)(注※2)
(調査日 2020年11月29日)
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1) 探すの大変! やはり地元の大家さんはさすが

1-1) 過去の調査記録にあたる

 グリーンヒル通りから分岐する小さな道沿いにある徳本名号塔。近所の方々に伺って、やっと見つけることができた。
 まずは、『旧横山村石仏調査報告書』(八王子石仏の会、1998年)の以下の記述を頼りに、調査を開始した。

87.9.13調査 
旧中寺田 
代田橋より上寺田方面道路わきにNo.18 19 20がブロック塀内に安置されている

 このNo.20が徳本上人名号塔である。No.18とNo.19は石仏の観音像と庚申塔だという。1987年の時点では、この3つが道路沿いのブロック塀の中に存在していたことになる。まだ同じ場所にあるのだろうか、また、あったとしても、見つけられるのだろうか。半信半疑で調査を開始した。

1-2) 橋オタクさんのサイトに感謝

 まずは、美代田橋を探した。実は、上記の記述を目にしたとき、これは大変だと思った。多摩川の支流の支流の支流みたいなのがいくつか流れている地域なので、橋もたくさん架かっている。一つ一つの橋の名前など地域の人も把握していないだろうと思っていた。しかし、橋の場所は思いのほか簡単に見つかった。「東京の橋」というマニアックなサイト(こちら東京の橋:美代田橋)に位置情報付きで紹介されていたのだ。橋オタクさんの作成されたであろうサイトに敬意と感謝を表したい。
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1-3) 最後は地元の方のご協力のおかげ

 美代田橋(ミヨタハシ)までいくと、すぐ近くに「中寺田」というバス停があった。バス停の時刻表を見ると、一日に数本しかバスの運行がない。大通りから一本入っただけなのだだが、かなり静かな住宅地だった。このあたりが確かに「中寺田」だったのだろう。上述の資料から「美代田橋より上寺田方面」の「道路わきのブロック塀内」を探す。しかし、「寺田町」という地名は今も残るが、「中寺田」「上寺田」という住所は今はない。
 したがって、上寺田方面がどちらの方向なのかわからない。やみくもに周辺を往復してみると、高台に榛名神社があって石仏や石碑があり、また、小さな牧場の片隅にも石仏が並んでいた。石仏密度がかなり高い地区のようだ。
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 しかし、徳本上人名号塔はなかなか見つからない!
 また美代田橋まで戻って、周辺をうろうろしていると、近くの方が外に出てきた。アヤシイ人がいると思ったのだろう。不審がらせてしまったのは大変申し訳ないが、これは私にとっては絶好のチャンス。私から話しかけてみた。そして、そのおかげで、ご近所の年配の男性にお話を伺うことができた。「200年前の石碑を探しているんです」と必死にアピールをしたところ、ふんふんと話を聞いてくださった。しかし、この男性も「上寺田方面」とはどの方角かわからないとのこと。「大家さんに聞いてみましょうか」とおっしゃった、ちょうどその時、なんと大家さんが車で通りかかった。大家さんいわく、「あー、それたぶんわかる。〇〇さん家のところだよ、たぶん。ちょうど上寺田方面だし。ここからすぐそばよ」とのこと。さすが大家さんは地域の事情に詳しい。「でも、石碑は3つもあったかなー」と首をひねりながら、大家さんは車で立ち去られた。
 私は、「わかりました、探してみます!」と言って、自転車を漕ぎだした。すると、少し離れた先で、大家さんが車を停めて、手を振ってくださっていた。「ここよ! 本当だ、三つあったわね」とおっしゃった。大家さんの指さす先に、探していた徳本上人の独特の文字があった!
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2) 自然石のゆがみの上に刻まれる南無阿弥陀仏の文字

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 小さな冒険のあと、私の目に飛び込んでくる徳本上人の南無阿弥陀仏の文字。この感動と幸せをどう表現すればよいのか。
 寺田町の名号塔は大きな太い自然石のもので、かなり黒ずんでいた。しかし、徳本上人の独特の文字ははっきりと読み取れる。幸せを感じさせる、流れるような六文字だ。
 ここ美代田橋近くの徳本名号塔の特徴は、凹凸のある正面に名号を刻んだ点だろう。南無阿弥陀仏の文字はかなりうねっている。
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 これまでに見つけた八王子の名号塔はすべて自然石に刻まれていたが、正面は比較的、平らになっていた。自然石のゆがみにも心惹かれてしまう。
 過去の石仏調査書を頼りに、地元の人のご協力を得て、200年前のお念仏の証を探し出せるとは、なんとありがたいことだろう。

注※
1) 『旧横山村石仏調査報告書』(八王子石仏の会、1998年)より
2) 住宅地のため、住所の記載は控えています。徳本名号塔を調査されている方で、正確な場所を知りたい方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
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