ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【妄想拝観】奈良古刹ミステリー『大安寺ガラガラ事件』

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 えーと、来年の大安寺展のチラシを入手しました。これがとんでもないチラシでした。なんと、収蔵庫の不空羂索観音楊柳観音聖観音、四天王の7躯と、嗎堂の馬頭観音の写真が掲載されているではありませんか。写真の仏像がすべて出展されるのであれば、大安寺の重文の仏像9躯のうち8駆までが出展されるということになります。「あー、大安寺はガラガラになっちゃうよー」と思いました。これはまるで事件です! 大安寺は、修学旅行中の教室みたいにガラガラになってしまいます。

 そういうわけで、妄想がどんどん膨らみまして、ミステリー劇場『大安寺ガラガラ事件』が生まれました! 書いている間、私の脳内には『太陽にほえろ』のテーマ曲が絶えずかかってました。

 ふざけてる訳ではございません。大安寺の諸像が大好きなのです! 大安寺の諸堂で仏様を見上げて過ごした経験から生み出された妄想なのです!

 よろしければお読みください。。。

 

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奈良古刹ミステリーシリーズ第1弾 大安寺ガラガラ事件


作 はらぺこヒヨドリ


「なにー? 大安寺から仏像が消えたー!?」

 一報を聞いてベテラン刑事が駆けつけると、すでに収蔵庫はもぬけの殻。そこへ新米刑事が息を切らせて飛び込んできた。

新人「ボス、嗎堂の馬頭観音様もおられません!」

ボス「なんだって! いったいどういうことだ? 大安寺に何かトラブルでも?」

新人「いえ、収蔵庫の不空羂索、楊柳、聖観音、四天王の7名様は、それぞれ個性を認め合い、仲良く暮らされていたそうです。トラブルとは無縁です」

ボス「おお、そりゃそうだろうー」

新人「しかし、嗎堂の馬頭観音様については、心配な噂が…」

ボス「なんだと?」

新人「なんでも…(小声で)馬頭観音様は文化財指定が千手観音であることを気にされ、悩んでおられたのだとか…

ボス「なんでだよー! だって、仏像愛好家たちはそんなこと気にしてないだろー」

新人「それがですね、嗎堂の馬頭観音様は毎年3月、一か月間ご開帳なのですが…

ボス「知ってるよ、そんなことは! 仏像界の常識だろー!」

新人「す、すみません…」

ボス「まぁいい。話を続けなさい」

新人「はい。3月のご開帳の度に、ボランティアガイドの方々が『お寺では馬頭観音としておまつりしてますが、文化財指定では千手観音とされています』と説明されるのです」

ボス「たしかに」

新人「最初のうちは、馬頭観音様も特に気に留めておられなかったのですが、参拝者が来るたびに何度も何度も同じ説明されるので、だんだんと自分はいったい何者なのかと思い始めてしまったらしいのです」

ボス「アイデンティティの危機ってやつだな」

新人「はい。しかも、嗎堂には同時代の仏像がおられないことから、誰にも悩みを打ち明けられず、お一人で思い詰めてしまったようなのです

ボス「それはつらいな…」

新人「それで、馬頭観音様はお寺が閉門したある夜、こっそり収蔵庫に向かわれたそうなのです…」 

ボス「なるほど…。確かに、収蔵庫に行けば、馬頭観音様と同じ奈良時代の木彫仏と話ができるからな…」

新人「収蔵庫で悩みを打ち明けると、まず楊柳観音様が激怒されたそうです。そんな小さいことで悩むな、くよくよするな、と。自分も楊柳観音にしては強面だと言われる。でも、まったく気にしてないぞー、とまくし立てたそうです」

ボス「それは恐ろしい。馬頭に向かって罵倒とは!」

新人「ボス、こんな時に親父ギャグですかっ」

ボス「…す、すまん…」

新人「一方、隣の聖観音様は、ただ黙って馬頭様の手を握っておられたのだとか。終始微笑まれていたそうです」

ボス「とろけるような優しさだな…」

新人「激怒する楊柳観音様とにこにこ笑顔の聖観音様の間に、そっと手を差し伸べたのが、あの不空羂索観音様だったそうです」

ボス「さすが! 収蔵庫の中尊!」

新人「『お二人とも落ち着いて』と優しく声をかけられたそうです。『私たち木彫仏として造立されてから、ながーい年月が過ぎましたね。これはもう専門家に相談するしかありませんね』。そうおっしゃったそうです」

ボス「ほー!」

新人「馬頭様はうつむいた御顔を上げ、『専門家?』とつぶやきました。すると不空羂索様が『そうです、専門家のいる奈良国立博物館へ参りましょう』とおっしゃったのだそうです」

ボス「…?」

新人「楊柳観音様は怪訝な表情ながらも、まんざらではないご様子で、聖観音様はうんうんとうなずかれたそうです」

ボス「……??」

新人「その時、四天王様が壇上から勢いよく飛び降りて、『だったら、私たちが護衛しましょう!』とおっしゃったそうです」

ボス「つ、つまり、大安寺の諸仏は奈良博へ行かれたのか!?」

新人「おそらく、そうかと」

ボス「おい、新米、その話、いったい誰に聞いたんだ?」

新人「大安寺本堂のご本尊十一面観音様です。十一面観音様は大安寺に残り、みんなの分まで衆生を護るのだとおっしゃいました」

ボス「なんとありがたいことだー!」

ボスはすぐに捜査員全員に指示を出した。奈良国立博物館へ行け、と!


おしまい

 

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というわけで、展覧会を楽しみにしています!

 

【展覧会情報】
特別展「大安寺のすべて―天平のみほとけと祈り―」

令和4年(2022)4月23日 (土)~令和4年(2022)6月19日 (日)

西新館(奈良国立博物館

www.narahaku.go.jp

 

【昔の参拝記録】 

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