常楽寺(神奈川県鎌倉市大船)は、北条泰時を開基とする臨済宗建長寺派の古刹。泰時室の母の追善供養のため嘉禎3年(1237)に創建。
年に一度、文殊祭の宵祭の際に、秘仏の文殊菩薩様を拝めると聞き、お参りしてきた。冬の夜、静かな灯りのともる禅寺で、鎌倉らしい美しい仏様を拝ませていただいた。
1) 秘仏文殊菩薩坐像(恐れ多くも懐中電灯で…)
常楽寺の参道を進み、山門をくぐると仏殿があり、本尊阿弥陀三尊がまつられている。さらに、仏殿の横に文殊堂があり、秘仏の文殊菩薩坐像(県指定文化財)はここにまつられている。文殊菩薩様は秘仏で、毎年文殊祭の際にお堂が開かれる。
文殊祭は、1月24日18時から宵祭があり、1月25日14時から本祭がある。25日の本祭では、大勢の僧侶による転読が行われるが、この時には堂外からしか拝観できず、お姿はほとんど見えないと聞く。
しかし、その前夜祭とも言うべき宵祭では、18時からの法要の後、お堂に上げていただける。お厨子の中の文殊菩薩様を間近で拝ませていただけるのだ。しかも、よく見えるようにと、大きな懐中電灯を手渡される! なんとも恐れ多いことだ。恐る恐る懐中電灯をお厨子の中に当ててみる。お厨子の中は暗く、近づいてもよくは見えない。それが、光を当てた途端に、美しい仏様が突如として目の前に現れる。わあと思わず声を上げてしまった。噂に聞く以上の美しさだった。
お姿は鎌倉国宝館のツィートでどうぞ。夜の堂内で、下から拝むお姿は、写真より何百倍も神秘的だったことを申し添えたい。
特別展「鎌倉国宝館1937-1945」の見所その3:大船常楽寺では、毎年1月25日の文殊祭に、秘仏の文殊菩薩坐像がご開帳されます。衣の着方などに異国風の特徴があり、建長寺開山の蘭渓道隆が中国から持参したという伝承を想起させます。本展の会期中は、こちらの秘仏を間近でご鑑賞いただけます。 pic.twitter.com/lNRrIyrnEm
— 鎌倉国宝館 (@kamakura_museum) 2018年11月14日
2) 阿弥陀三尊は夜の光で美しさを増す
そして、私は仏殿のご本尊阿弥陀三尊(鎌倉市指定文化財)の大ファンでもある。この阿弥陀三尊様は、昨年、住友文化財団の「文化財よ、永遠に」展にお出ましになったばかりだ。鎌倉らしい宋風の美しさに魅了され、この展覧会に4回も通ったほどだ。お堂におられる阿弥陀三尊様は、冬の夜の照明のもと、美しさを増していた。
中尊台座の墨書に仁治3年(1242)6月12日造立とある。泰時は同年5月9日に出家し、年紀の3日後である15日に亡くなっており、この阿弥陀三尊は泰時の臨終仏だと考えられている。
今は文殊堂にまつられる毘沙門天立像、不動明王立像と合わせてまつられていた可能性もあるという。毘沙門天立像は横須賀浄楽寺のそれと似ている。
3) 常楽寺とは
なお、常楽寺(神奈川県鎌倉市大船)は、北条泰時(鎌倉幕府三代執権)が義母の供養のため1237年(嘉禎3)に建てた粟船御堂(あわふねみどう)に始まる。この粟船がなまって、大船という地名になったという話もあるそうだ。今の寺名は泰時の法名「常楽寺殿」から。蘭渓道隆が建長寺の建立される1253年(建長5)まで住んでいたことでも知られる。
北鎌倉の五山とは少し離れた場所に、こんなに美しいお寺が残るとは! 一言でまとめると、冬の夜のご開帳は感動する。何度でもお参りしたい! さらに、お昼にもお参りしなければ。文殊祭の本祭もお参りしなければ。
4) 拝観案内
【名称】粟船山常楽寺
【住所】神奈川県鎌倉市大船5-8-29
【交通】大船駅東口交通広場のバス停からバスが頻繁に出ている。常楽寺バス停下車すぐ。大船駅から徒歩でも15分ほど。
【文殊菩薩様の拝観可能な日時】文殊祭は宵祭1月24日18時〜/本祭1月25日14時〜。これが公式情報。ただし、2020年1月にお寺にお電話で伺ったところ、文殊堂に上げていただけるのは宵祭の法要か終わる18時30分頃から1時間ほど。また、25日の午前中も入堂拝観できるかも、とのこと。それ以降は転読など本祭の準備などで忙しくなるので難しい。14時以降は入堂できない。入堂できないとお姿を拝むのは難しい。仏像好きな方は入堂可能な時間帯がお勧め。懐中電灯を照らして拝観できるかも。
(あくまで2020年の情報ですので、拝観される前にご確認ください)