ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【滋賀】石山寺で十一面観音立像の特別公開 ~石山寺の諸像をゆっくり拝む~

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1) 石山寺で十一面観音立像の特別公開

 石山寺の本堂で特別公開中の十一面観音様を拝ませていただいた。勅封秘仏のご本尊様の真後ろに、穏やかな観音様が立っておられる。こちらが後退りしてしまうほど近かった。間近で静かに手を合わせた。像高約170cm。平安後期12世紀。湖北から来たと伝わるそうだが、それ以上の情報は聞こえてこない。石山寺にまだこれほどの仏像がおられたとは驚きである。文化財未指定なのだろうか。桜が満開で境内は賑やかだったが、本堂の内陣拝観は人が少なく、ゆっくりとお参りできた。
 石山寺のご本尊如意輪観音様は筆舌に尽くしがたい魅力があるが、この日は非公開。残念だが、その分、それ以外の素晴らしい仏像を拝む余裕ができた。以下で、石山寺の仏像を振り返ってみる。

2) 石山寺の創建に東大寺大仏との関わり

 「石山寺縁起絵巻」によると、石山寺天平19年(747)、聖武天皇の勅願により、東大寺の良弁僧正が創建。聖武天皇が大仏を荘厳する黄金の産出を祈願するよう良弁に命じた。良弁は最初吉野で祈願するが、蔵王権現の夢告により石山の地にたどり着く。石山の岩の上に観音像を置いて祈ったところ、陸奥の国で金が見つかった。その際、観音像は石山の岩から離れなくなったため、そこに草庵を建てたのが始まりとされる。

3) 石山寺本堂の仏像群

 本堂中央の宮殿に、勅封秘仏のご本尊如意輪観音様がまつられる。その前にお前立像。
 正面左側に不動明王坐像(重文)。像高86.7cm。平安10世紀後半。檜材の一木造り。お不動様の辺りはなぜか暗く、目をこらなさいとよく見えないのだが、大変立派なお像である。総髪で、目を見開いて、上歯で下唇をかむ、大師様。
 右側に薬師如来坐像。その周りに板彫十二神将興福寺の板彫像を思い出す、ユニークで生き生きした十二神将だ。その裏側に、良弁像吉祥天像、そして、塑像金剛蔵王権現の心木
 石山寺創建当初、ご本尊の脇侍として、金剛蔵王権現と執金剛神の二柱がまつられた。本堂に現在安置される蔵王権現の心木は創建当初のもので、右脚を上げる蔵王権現独特のポーズを取る。しかし、台座に右足を置く跡が残ることから、創建当初は右脚を下ろしていたと考えられている。良弁は吉野の蔵王権現から夢告を受け、また、東大寺には良弁の念持仏執金剛神像が残る。良弁にかかわる神像二柱が本尊の脇侍であることは興味深い。
 お堂の右奥に巨大な毘沙門天とそれより少し小さめな増長天持国天。何気なくまつられているが、いずれも平安時代の作で、この3像で一括して重要文化財に指定されている。毘沙門天は像高262.1cmの巨像。瀬田にあった毘沙門堂から移されたと伝わる。持国天(像高162.1cm)と増長天(158.8cm)は一具で、毘沙門天とは別に制作された。
 また、宮殿の両脇に14体ずつ並ぶのは二十八部衆だろうか。よいお像だと思うのだが、情報がない。

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石山寺本堂の不動明王坐像(※写真は『大津の文化財』より)
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石山寺本堂の毘沙門天持国天増長天(※写真は『大津の文化財』より)

4) 他のお堂にも重文のみほとけが

 それにしても、石山寺の美しさにはいつも息をのむ。琵琶湖から流れる瀬田川のほとり、硅灰石の上に堂宇がある。国宝の美しい多宝塔を覗き込むと、快慶さんの大日如来。なぜにあれほど美しいのか。像高101.7cm。像内頭部に墨書に「アン阿弥 陀(快慶)」ほか、快慶工房の仏師の名前がある。像表面に江戸時代の修理が残るそうだが、それでも快慶さん独特の美しさが満ちている。私は多宝塔を覗き込むたびに息が荒くなり、「惚れてまうやろ~」と心の中で叫んでいる。
 毘沙門堂を何の気なく覗くと、兜跋毘沙門天は平安の重要文化財だ。像高174.2cm。地天女の掌上に立ち、尼藍婆毘藍婆を足元のおく。この地天女と尼藍婆毘藍婆を含めて、一材から彫り出す。内刳りなし。

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毘沙門堂を覗き込む(※筆者撮影)

 また、2021年4月29日〜5月17日にまた光堂の特別公開があるそうだ。困った。また行けるだろうか。ここの大日如来坐像は平安前期の重量感あるお姿で、私は一目拝して腰が砕けてしまった。多宝塔の旧本尊だったそうで、今の快慶さんの大日如来様も脳裏に浮かび、平静を保つことが難しくなってしまう。光堂本尊は阿弥陀如来坐像鎌倉時代の作。淀君寄進による如意輪観音半跏像(慶長年間1596-1615)も美しい。
滋賀県大津の古刹 石山寺・三井寺 あお若葉 もみじの競演 | 大本山 石山寺 公式ホームページ

5) ご本尊様にお会いしたい

 本堂にまつられるご本尊様は勅封秘仏の二臂の如意輪観音33年に一度、または、天皇陛下ご即位の翌年に、勅使によってのみ開扉される。令和2年の春にご開扉があったが、私を含め、自粛された方も少なくないのでは。私は2016年に拝観したが、あの感動は言葉に表せない。
 天平宝字6年(762)に造立された塑像が承暦2年(1078)に焼失したあと、木造で再興されたお像である。奈良時代に観音とされていたが、平安時代真言密教寺院となる過程で如意輪観音として礼拝されるようになったと考えられる。像高293.9cmと巨大ではあるが、愛くるしいご尊顔に打ちのめされる。岩の上の蓮華に座り、左脚を下げるさまは、やんちゃな感じがしてたまらない。高貴な像であるのに、親近感も覚えてしまうのだ。
 感染が落ち着いたら、特別に開けていだけないだろうか。
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拝観日=2021.3.27

【拝観案内】

西国三十三所観音霊場第十三番札所
大本山石山寺
滋賀県大津市石山寺1-1-1
公式ホームページに縁起等が詳しく説明されているので、必読。
www.ishiyamadera.or.jp

参考資料

大津市制100周年記念 大津の文化財大津市教育委員会(平成10年)