ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【兵庫】篠山市・西光寺〜村人が守る優しい平安仏〜

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 丹波に行く用があり、それに合わせて仏像をめぐってきた。訪れたのは、兵庫県丹波市の達身寺、柏原八幡神社篠山市の文保寺の楼門と大勝院、大国寺、西光寺、そして、磯宮八幡神社
 ここでは、西光寺での出会いについて書きたい。重要文化財の平安仏が村人の信仰によってお守りされていた。

1) 西光寺とは

 西光寺は行基創建と伝わる。中世の動乱で堂宇は焼かれたものの再興され、残された諸仏が護持されてきた。
 昭和に入り、最後の尼様が亡くなられた後、お堂も老朽化して取り壊しに。昭和42年に畑市(はたいち)地区の中央に収蔵庫を立て、薬師如来と四天王を移した。現在、地区の村人14軒の信仰によって守られている。

2) 村人が守る大切な仏様

 実は今回の旅の予定を立てるまで、西光寺が地元管理になっていることを知らなかった。拝観のお願いをしようと、ネットで拾った電話番号にかけると、篠山市文化財課につながった。そこで、西光寺がすでに廃寺になったことを知り、収蔵庫を管理されている方の連絡先を教えていただいたのである。
 現地に到着すると、管理人さまがお堂を開けてくださっていた。親切にご対応いただいた。お礼申し上げたい。
 管理人さまによると、普段、収蔵庫は閉まっているが、毎日村人が交替で線香をあげているそうだ。当番票が回ってくるのだという。
 さらに、毎月16日には村人が集まって扉を開け、お参りする。
 村の軒数は先日、一軒減って、14軒になったそうだ。
 なお、この場所は篠山市内なので、厳密に言うと"村"ではない。だが、管理人さんが地区の人々を"村人"と呼んでおられ、その響きが温かかったので、ここでもそう呼ばせていただく。
  「文化財なんて言うけど、うちらにとったら仏様なんだよね」。管理人さまの言葉が忘れられない。

3) 薬師如来坐像(平安中期 一木造り 背中に内ぐり 157.5cm 重要文化財

 さて、畑市地区の大切な仏様を拝ませていただくとしよう。まずは、中尊の薬師如来さまをご紹介させていただきたい。収蔵庫に上げていただくなり、その優しいご尊容が視界に入った。
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 (↑この斜め後ろから安定感がたまらない!)

 平安中期の薬師如来坐像は、間近で拝むと体躯にかなりの量感があり、穏やかなご尊顔と衣文に魅了される。像高157.5cmというのが信じられないほど、大きく感じる。
 桂の一木造り。背面に内刳り。頭部が大きく、螺髪も大粒。鎬のたった眉。側面から拝すると、巨木を惜しみなく使った体軀が露わになる。それでいて、両脚にかかる衣文は上品だ。
 一木の安定感を示しながら、穏やかで優しいお姿。私は平安中期の仏像に激しく惹かれる。

4) 四天王立像(平安後期 重要文化財広目天のみ後補が多いため、市指定文化財

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(左が増長天115.2cm、右が持国天115.8cm)
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(左が広目天120.0cm、右が多聞天116.2cm)

 憤怒相ながら、平安後期らしく上品さが漂う。像の幹部はヒノキの一木で、両手を寄せる。
 特に、毘沙門天さまのこの上品な目とお顔の表情に惹かれた。太股あたりの彫りも不思議。
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5) 十二神将

 収蔵庫の片隅に、小さな十二神将が2躯まつられていた。左のお像は身体に動きがあり、お顔の表情もよい。腕利きの仏師の手によるのだろう。
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 室町時代と書いてあったが、鎌倉まで下る可能性はないのだろうか。
 右の像は左には比べると動きがある堅い。お顔も後付けのようで、やや稚拙な印象を受ける。

6) 青面金剛

 近世の作だろうか。こちらもうまい。こわいはずなのに、かわいらしくもある。
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7) 最後に

 これほど貴重な文化財を高齢化する地元の人々がお守りする現実。お守りしようとする原動力は文化財保全でも、観光促進でもない。純真なる信仰に他ならない。
 そう思いながら、須弥壇の中央を見上げると、薬師さまが1000年の変わらない微笑みを浮かべておられた。
 地方の仏像をめぐっていると、こういう状況にたびたび遭遇する。高齢化と都心一極集中が進む日本がここにもある。

拝観案内

西光寺収蔵庫
要予約(市の文化財課に問い合わせ)
兵庫県篠山市畑市344
※令和元年5月から篠山市丹波篠山市に改称。