ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【神奈川】大磯町・王福寺の薬師如来坐像~平安のカヤの一木造り~

 2019年1月3日、神奈川県大磯町の六所神社(神像の公開)から再びバスで移動し、近くの王福寺で平安中期の薬師如来坐像にお会いした。

王福寺とは

 神奈川県大磯町の山寄りにある東寺真言宗のお寺。行基菩薩によって開かれたと伝わる。現在の境内よりさらに500メートルほどの山の上に、本堂その他の堂宇を構え、末寺も立ち並んでいたと考えられる。平塚方面や相模湾伊豆大島、箱根を見渡す眺望のよい場所なのだそうだ。周辺の地番台帳には、本堂、薬師下、薬師向、仁王平などの地名が残されている。
 王福寺の名前が歴史書に初めて登場するのが『吾妻鏡』。建久3年(1192年)に、源頼朝北条政子の安産祈願のため、相模の国の27の寺社に神馬を奉納したのだが、その一寺として「王福寺 坂本」の名が記載されている。1505年の兵火のあと、栄範律師により現在の場所に再興。1603年にも火災に遭ったが、5つの末寺を合併して一山一寺とし、平安時代薬師如来坐像を守り抜いてきた。

薬師如来坐像

王福寺の薬師如来坐像
重要文化財、像高131.2センチ、榧の一木造り。平安初期から中期

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 お寺に到着すると、ご住職が収蔵庫を開けてくださった。収蔵庫の階段をのぼると、大きな薬師如来さまが目の前に近づいてきた。

 どっしりとした量感があり、それでいて穏やかな表情の薬師さまだ。

 豊かな頬に切れ長の目。高くて大きな肉髻。大きな耳。量感ある体躯。腕は太く、手も大きい。組んだ脚の両膝が大きく張り出す。斜め前から覗き込むと、胸部や腹部にかなりの厚みがあった。写真で見た以上の迫力だ。思わず感嘆の息を吐き出す私。
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 像底から頸部の下まで背面から内ぐりをし、背板があてられている。ただ、内ぐりはごくわずかなものであるため、お像はかなりの重みがあるそうだ。二人で持ち上げるのさえ大変だったとご住職がおっしゃっていた。
 また、膝から下の彫り方も古風なのだそうだ。「普通なら膝頭から地付部へかけて丸みのある曲線をなして彫り込むべき膝の下半部を、本像ではあまり削らずに、わりと直線的に地付へ達しています」(お寺のリーフレットより)。量感ある一木造りの体躯とともに、「こうした表現方法は、平安初期から中期へかけての一木彫成像に見られる特徴」(同上)なのだとか(知らなかった!)。しかも、榧材の一木でこの大きさは大変貴重だと思う。

襟立如来さまと呼んでよいものでしょうか?

 個人的には、首周りの衣の襟が立っているように見える点が気になった。2017年の島根の仏像展で、松江の仏谷寺の薬師如来坐像雲南市の禅定寺の阿弥陀如来坐像など、襟の立った平安仏を見てきたからだ。大和郡山市の東明寺の薬師如来坐像奈良県桜井市・報恩寺の阿弥陀如来坐像も襟が立っている。好きでたまらない仏様ばかりではないか!

 奈良県大和郡山・東明寺の薬師如来坐像はかなりとがった感じである。
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 9世紀に遡る強い印象の薬師さまだ。襟のことは私は失念していたのだが、今回ご一緒した桃さんに教えていただいた。確かに襟が立っている!(写真は大和郡山市のサイトより)

 そして、島根県松江市・仏谷寺の薬師如来坐像も強烈な印象だった。

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写真は島根の仏像展(2017年、古代出雲歴史博物館)図録より

 そして、島根県雲南市・禅定寺の阿弥陀さまはこのようなお姿。
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 学ランの前をはだけたようにも見え、私の中では、「阿弥陀界の優しいツッパリ番長」の地位を占めている。大好きな阿弥陀さまで、本ブログでも、「制服を着崩したツッパリ番長」や「襟立ち如来さま」という言葉で愛を叫んでいる(雲南市・禅定寺の阿弥陀如来坐像~優しい番長さんw~ - ぶつぞうな日々 part III)。片思いだとは信じたくない。禅定寺の阿弥陀さまは東明寺や仏谷寺と比べると、ずいぶんとくだけていて、穏やかだ。厳しいか穏やかという観点でみると、東明寺と仏谷寺→王福寺→禅定寺という順で穏やかさが増していく感じだろうか。

 さらに、平安後期にも襟立ての特徴をもつ如来様がおられる。奈良県桜井市外山・報恩寺の阿弥陀如来さまだ。お像の雰囲気は平安後期の気品に満ちており、上記の如来様とは全体の印象がだいぶ異なるのだが、こっそり襟を立てている。今、写真を見返すと、襟の感じも上記の如来さまたちとはだいぶ違う。チャーミングである。こちらも大好きな阿弥陀さまだー!

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筆者撮影2017年5月

 そして、2019年正月、また新たに、大好きな「襟立ち如来さま」に出逢ってしまった…。

 ---と、ここまで興奮気味に書いてきたが、改めて王福寺の薬師如来さまの写真を見ると、東明寺、仏谷寺、禅定寺ほど、襟が際立って立っているとは言えないように思えてきた...。

 王福寺の薬師さまが好きすぎて、私は暴走しすぎたかもしれない。見当違いだと思われる方がおられれば、どうか看過ください。

 襟を立てた仏像に焦点を当てた研究はないのだろうか。もしあれば、ご教示いただければ幸いである。


 なお、堂内には、十二神将もお揃いであられた。大きな像ではないが、鎌倉時代の作だそうだ。文化財未定。さらに研究が進むことを願う。
 

 最後に、お正月であるのに、突然の電話での拝観依頼を快諾くださり、収蔵庫を開けて、ご説明くださったご住職に感謝申し上げたい。お話を伺うなかで、お仏像をとても大切にされてることが伝わってきて、さらに感動した。当日の朝、二宮駅で偶然会って、王福寺に同行くださった桃さんにもお礼を申し上げたい。桃さんのTwitterの書き込みを前夜に発見し、六所神社のそばに王福寺があることを知ったのでした。幸運な偶然でした。ありがとうございました。

【拝観案内】

大高山王福寺
〒259-0101 神奈川県中群大磯町寺坂639
電話 0463-71-2102
基本的には寅年のご開帳だが、雨天時を除き予約拝観が可能
上記の王福寺薬師如来さまの写真2枚はポストカードより