ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

雨引観音さまに卒倒寸前の私(茨城県桜川市)

茨城県桜川市
楽法寺(坂東24番、雨引観音

 2018年4月8日。クラブツーリズムの特別拝観で、楽法寺秘仏本尊、通称、雨引観音さまにお会いできた。
 普段は収蔵庫に安置され、秘仏となっている観音さまである。2014年にほぼ通年にわたり、本堂に移され開帳されたのだが、私は不覚にもその機会を逃していた。もうお会いできる機会はないかもと思っていたのだが、こんなにも早く拝観できるとは!

 この日、楽法寺は午前中に「マダラ鬼祭」があるため、クラツーの拝観は午後に設定することになったと聞いた。マダラ鬼祭は毎年4月第2日曜日。先にポストした笠間の公開日は毎年4月8日。今年は偶然にも重なったのである。
 私は鬼さんの祭りも好きなので、このマダラ鬼祭も気になる…。今年は染井吉野が早くて葉桜になってはいたとはいえ、本堂前のピンクのお花はこんな感じで美しい…。まさに春満開…!
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 しかし、しかしである。秘仏雨引観音さまのお姿を目にした瞬間、鬼さんや桜でそわそわふわふわしてた気分が吹き飛んだ。

 な、なんですか、この不思議なお姿は。

 収蔵庫内の撮影は禁止なので、楽法寺の公式動画から写真を拾ってみた。公式動画に一瞬だけ映る画像がこちら。
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 収蔵庫内、向かって左から、前立の観音菩薩立像、秘仏本尊「観世音菩薩立像(寺伝延命観音像)」、不動明王像(県指定文化財不動明王像か?)。
 一番左の観音像は、中央の本尊の御前立の像だという。宋風の衣紋からわかるように、鎌倉時代の作である。本尊観音菩薩立像は国の重要文化財なのだが、この前立像が付属する形で重文指定されている。

 同じく動画より、延命観音さまのご尊顔。
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 こちらの写真がわかりやすいだろうか。
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(写真は『秘仏毎日新聞編 1991年より)

 秘仏延命観音さまを見てみよう。文化財サイトによると、榧の一木造で、内刳なし。
 左右4本ずつの腕のくっつき方が独特だ。肩と肘が一度に現れるような不思議な表現。これを文化財のサイトは次のように記す。
 「両側各臂(ひ)の上膊部(じょうはくぶ)をまとめて一材に刻み、肩に矧付け(はぎづけ)、各手の前膊部はそれぞれ手先と共木(ともぎ)に彫り、これを肘で矧付け」ている。
 つまり、4本来の腕が肩と肘のところでひとまとめになっている。これがかなり異様な感じを醸し出す。隣の前立像も左右四臂ずつだが、もっとスマートにまとまっているではないか。本尊の無骨な表現に卒倒しそうになる
 下腹部の衣紋も萌える。翻波式をまじえた「衣褶(いしゅう)の鎬立(しのぎた)った彫法は、いわゆる平安初期一木彫像の風にならうもの」だと文化財サイトは言う。
  私は特に、両脚の間に一本すとんと立った衣の線がとても気になった。また、お腹を辺りのひらひらした衣紋や、膝辺りでW字を描いてひねる衣も気になる。確か平安前期の特徴ではなかろうか。
 また、天衣のふわふわに隠れて分かりにくいかもしれないが、真正面から見ると、観音さまのウエスト部分が異様に細いことに気付く。不思議な魅力を生み出すもう一つの要因だろう!
 また、「天衣や裳の縁にうねうねと反りを設けた刀法など、一種の地方作風ともいうべき特色」を文化財サイトは指摘する。
 つまり、平安時代の地方仏という意味なのか!? 仏像の教科書の基本が通用しないお姿に、とてつもないパワーを感じる。

 この不思議な観音さまにまたお会いできる日はくるのだろうか。今、私は、雨引観音さまの独特の印(人差し指と小指を立て、中指と薬指を親指で押さえる)を自分の手で結び、それを眺めている…。


【参拝案内】
雨引観音(雨引山楽法寺
〒309-1231 茨城県桜川市本木1
電話:0296-58-5009
※今回はクラブツーリズムのために収蔵庫を開けてくださった。一般個人が予約で開けていただけるのかは不明。2014年は通年にわたり本堂で開帳したが、同じことが今後も行われるかどうかは不明とのこと。