人生初ハワイで平等院へ!
ちょっとした用事で、人生初のハワイに出かけてきた。日本の古い仏像と二十五菩薩来迎会の追っかけである、この不肖者が、なんと、南の島へ。いつも行くのは南都(奈良)。今回だけ南島である。人生何が起こるかわからないものである。
ところが、現地に行ってみると、ハワイの雰囲気が思いのほか居心地がよく、自分に合っていた。まずお日さまが明るい。アメリカ合衆国の一州でありつつ、ハワイ独自の言語や文化が大切にされる。移民受け入れの歴史により育まれたのであろう、多文化社会の豊かさも感じる。日系人やアジア系の方も多く、米国本土より親近感もある。さらに、体格のよい方が多いので、自分が痩せていると錯覚してしまうというオマケも付いてくる(笑)
短い滞在ではあったが、そんな心地よさのなか、半日余りの時間を無理やり空けて、ハワイのお寺と仏像を巡ってきた。
まずは、前から気になっていた平等院へ。
オアフ島コオラウ山脈を背景にした鳳凰堂が美しくて、息をのんだ。
最初の日系移民のハワイ到着から100年を記念して、1968年に建立。
慣れない土地でご苦労されたであろう日系移民の皆様にとって、平等院がアイコニックな存在だったのだろう。日本仏教の宗派が一丸となって建立に関わり、今も宗派を問わず礼拝の対象となっている。胸が熱くなる。
コオラウ山脈の麓という最高の立地
私、不肖ヒヨドリ、ハワイには、海やサーフィンのイメージしかなかった。(日本でいうところのサムライとフジヤマと同じレベルw)。しかし、まぁ、昔の教科書に、ボートに乗ったサンタクロースの写真が載っていたような気がするし、ディズニー映画『リロ&スティッチ』も大好きなのだから、しかたない。まぁ、しかたない。。。
しかし、ここハワイの平等院に着いて、オアフ島はもっと奥深い自然に恵まれた場所なのだと知った。海だけではない。山がすごいのだと。それを一瞬にして体感したのである。
まずはこの写真をご覧いただきたい。この平等院へのアプローチ。なんですか、この奥に見える緑色の絶壁は。これがオアフ島の中央に走るコオラウ山脈なのだ。島の東に面して、絶壁のような山肌が続く。
私は宇治の平等院が大好きで、鳳凰堂の前で「はぁ〜♡」とつぶやきながら、写真を撮り続ける人間だ。なので、ハワイの平等院はがっかりするのではないか、と若干の心配をしていた。
ところが、どっこいしょ! そんな心配は現地に着いて一瞬にして吹き飛んだ。
いやいやいや、これは美しいではないか! 宇治とはまた別の美しさではないか!
まぁ、あえて難を言えば、ハワイ鳳凰堂の建物はコンクリート造りである。宇治は国宝の木造建築で温かみがあり、しかも、平成の修理の際、創建時と同じ丹土(につち)と呼ばれる赤色顔料で塗り直している。その差は歴然である。
しかし、その弱点を大きくカバーし、さらに、ハワイらしい魅力を加味しているのが、この立地ではないか。オアフ島の東に面して絶壁のように立つコオラウ山脈。その大きな緑色の背景と、熱帯の空気が、この鳳凰堂を際立たせる。ハワイは海だけでなく、山が抜群に美しいと知ったのだった。
平等院のレプリカ建設のため、この最高の立地が選ばれたこと。その英断に賛辞を送りたい。藤原道長・頼道親子も称賛しているのに違いない!
9フィートの丈六阿弥陀如来さま
鳳凰堂の中央に坐すのは9フィートの阿弥陀如来さま。つまりは丈六仏である。本家平等院の阿弥陀如来さまが像高277.2cmなので、同じ大きさにしたのだろう。重さ2トン。
宇治の阿弥陀如来坐像は天喜元年(1053)、仏師定朝の作。「仏の本様」としてのちの仏像の模範となった。いわずとしれた、国宝である。
ハワイの阿弥陀如来さまは、日本の彫刻家Masuzo Inuiが製作したミニチュアの原型をもとに、Jokei Sagawaが腕をふるい彫りあげた。漆の上に金箔を貼る、いわゆる漆箔であることも本家と同じ。台座の蓮弁の並べ方や天蓋の感じも似ている。本家への限りない敬意が感じられる。そして、丸顔で、温かみのある阿弥陀さまだ。
定朝を真似しつつも、どことなく南国感があるのは、阿弥陀さまが毎日拝まれる中でハワイの地に馴染んだからに違いない。これはあくまで私の主観だが、私はそう信じている。(東京多摩地域で平成初期に造立された高幡不動の不動三尊は、京都の仏師が制作したもので、最初はお堂の中で浮いて見えた。しかし、毎日何度も護摩を焚かれているうちに、地元に馴染み、今は完全に多摩の男らしくなっている。法隆寺金堂におられた勢至菩薩像もフランスのギメ美術館で長年暮らすうちに欧風になった、と私は思う)
多様な信仰が尊重される
鳳凰堂の銘文には、この平等院を建てるに辺り、日本仏教が宗派をこえて協力したことが刻まれる。日蓮宗、曹洞宗、真言宗、真宗東本願寺派、本派本願寺(西本願寺派のことをハワイでは本派と呼ぶ)および浄土宗の名前が読み取れる。
敬意を込めて、この銘文を書き写すと、以下のようになる。
BYODO-IN
THIS REPLICA OF BYODO-IN, UJI, JAPAN
COMMEMORATES THE 100TH ANNIVERSARY OF THE
ARRIVAL OF HAWAII’S FIRST JAPANESE IMMIGRANTS.DEDICATED JUNE 7, 1968 BY
BISHOP KANJITSU IIJIMA NICHIREN MISSION OF HAWAII
BISHOP TETSUEI KATODA SHINGON MISSION OF HAWAII
BISHOP ZENKYO KOMAGATA SOTO MISSION OF HAWAII
BISHOP RYOICHI SHIRAYAMA HIGASHI HONGWANJI MISSION OF HAWAII
BISHOP KANMO IMAMURA HONPA HONGAWANJI MISSION OF HAWAII
BISHOP KYODO FUJIHANA JODO MISSION OF HAWAII
なお、この感動的な銘文のまわりに、拝観マナーを呼びかける注意書きが貼られていた。特に、堂内で靴を脱ぐという文化がない人たちもたくさん来られるので、係の方々が絶えずお声がけされていた。こうした地道な努力により、信仰の多様性は維持されるのだろう。さすがハワイ!
写真、一番上のプレートには、Out of resepct for those who revere this temple, please remove your shoes.と書かれている。「弊寺院の信者への敬意として、どうか靴をお脱ぎください」。このように互いに敬意を払い合うという姿勢に学びたい。「なに靴履いたまま入ってきてんの! あほか!」と、頭ごなしに怒鳴るのではない。インバウンドでイラついている日本人が見習いたい一文だ。
さらに、堂内には、上記宗派の御紋に加えて、出雲大社や天理教の御紋、キリスト教の十字架まで掲げられている。お互いの信仰を認め、尊重し合う証だ。
ハワイの平等院はValley of the Templesという私営墓地の一角にある。アメリカの映画やドラマで観るような、広い芝生に小さな墓石が並ぶエリアもあれば、日本式の長方形の墓石が並ぶエリアもある。ここにも多様性が表れている。
コオラウ山脈の自然も美しいが、そうした寛容さと多様性も私は美しいと思った。
こうして振り返ると、ハワイ平等院は素晴らしいところばかりだ。足りないものといえば、ただ一つ、雲中供養菩薩だけ(笑)。本家宇治平等院鳳凰堂の壁には、52体もの雲中供養菩薩が音楽を奏で、舞っておられる。私がイーロン・マスクほどの富豪であれば、仏師の村上清さんに発注して、奉納するのになぁ。。
日本の方にこそ行っていだたきたい!
ハワイの平等院は、欧米人向け島内観光ツアーにはほぼ必ず組み込まれるらしい。アメリカのドラマ『LOST』など、ロケ地になってもいて、観光地として有名なのだそうだ。
しかし、肝心の日本人観光客で訪れる人は少ないと聞いた。本家が京都宇治にあるのに、なぜハワイまで行ってわざわざレプリカを観に行く必要があるのか。そう思われているのだろう。
いやいやいや…。
私は言いたい。もっと日本からお参りにいきませんか、と。
オアフ島の大自然を全身で感じながら、日系移民の皆様に想いを馳せようではないですか!
そして、私は日系移民の歴史と仏教の関係について、学びたくなっている。
【拝観案内】
Byodo-in Temple Hawaii
住所 47-200 Kahekili Highway, Kaneohe, HI 96744, USA
行き方 アラモアナからTheBus 65番で約80分。バス停降りて、Valley of the Temples Memorial Park内を歩くと到着。バスは1時間に1本程度なので、レンタカー等の利用が便利かと。
公式サイトThe Byodo-In Temple
なお、ショップでお願いすると、御朱印もいただける。"Goshuin"とか"Goshuin Stamp"で通じる。日本語がネイティブでない方が書かれた日本語の文字がたまらなく好き。
【参考資料】
⚪︎Byodo-in Temple Hawaii Wikipedia
Byodo-In (Hawaii) - Wikipedia
⚪︎Valley of the Temples Memorial Park Wikipedia
Valley of the Temples Memorial Park - Wikipedia
⚪︎ハワイの日系移民の歴史をぱぱっと学べるサイト→hawaii.jpハワイの日系移民の歴史があって今のハワイがある | hawaii.jp
⚪︎ドラマLOST 第1シーズン第6話で、ハワイ平等院がロケ地として使われている。チラッと見たところ、夜のシーンで、なぜか韓国人夫婦が韓国語で会話するシーンだった。いやー、本家は日本でございますよーと叫びたい(笑)
https://www.disneyplus.com/ja-jp/play/e59feff8-d2dc-4ea3-a152-de49d80bede2