甲府五山の一つで、武田信玄正室三条夫人の菩提寺である円光院で、甲府市主催の文化財公開があり、七条仏師による刀八毘沙門天と勝軍地蔵のお厨子が開かれた。普段は4月の信玄祭りの際にのみ公開される秘仏である。小さいながら、匠の技がぎゅっと詰まった見事なお像だった。そして、鎌倉後期のご本尊釈迦如来坐像にも惹かれた。
木造刀八毘沙門天及び勝軍地蔵像(山梨県指定有形文化財)
武田信玄が躑躅ヶ崎館内の毘沙門堂にまつり、行軍の際にも持ち運んで、日々祈りを捧げたとされる尊像。像高は毘沙門天が32.5cm、勝軍地蔵が34.0cmと小さく、一つの厨子に並んで安置される。信玄の遺言により、三条夫人の菩提寺である円光院に贈られた。
木造、切金、彩色、玉眼嵌入。刀八毘沙門天は正面と左右に複雑な忿怒形の顔をもち、さらに頭部に菩薩形の頭部を載せる。10本の腕のすべてに刀を握り、青い獅子に乗る。勝軍地蔵は精悍で静かなご尊顔。鎧兜に袈裟をかけ、白い馬に乗る。刀八毘沙門天、勝軍地黄はともに彩色はなく、素地で、衣や鎧に截金を施す。非常に精巧な作りで、小像ながら迫力がある。近くで見ると、截金が繊細で美しい。刀八でありながら、10の腕すべてに刀を持たせている点にもスペシャル感があり、信玄の強い思いを感じる。
京都七条仏所の仏師康清(こうせい)の作とされる。ちなみに、恵林寺(甲州市塩山)の不動明王坐像(いわゆる武田不動)は今年の調査で墨書が見つかり、康清の弟、康住の作と判明している(詳しくはこちら)。どちらも信玄が同じ工房に発注したということなのだろうか。
また、康清の作例としては、同じ山梨県の清水寺(山梨市)に、木造勝軍地蔵騎馬像(県指定文化財)がある。円光院の勝軍地蔵像とほぼ同じサイズだ。また、大徳寺総見院(京都市)の木造織田信長坐像(重要文化財)も康清の作とされる。総見院は豊臣秀吉が信長の菩提を弔うために建てた寺で、この織田信長像は信長の一周忌に造立されたものと考えられる。ちなみに、信長像は当初2体造られ、1体は遺体の代わりに棺に入れて焼かれたのだとか。戦国時代のこの激しい感じ、私はなかなかついていけない。信玄や秀吉をクライアントに抱えていたであろう康清さんの気苦労がしのばれる。
本尊釈迦如来坐像(鎌倉後期、文化財未指定)
円光院のご本尊は50-60cm(私の目視)の釈迦如来坐像。市の方に伺ったところ、鎌倉後期で、円派の作風に近いとされるのだとか。三条夫人が嫁入りの際に京都から持ってきた可能性が考えられるのだそう。
文化財の指定を受けていないためか、今回の特別公開では一切言及されなかった。しかし、仏像好きおばちゃんのハートは射抜かれてしまったのだった。
拝観案内
瑞巌山円光院(臨済宗妙心寺派)
〒400-0013 山梨県甲府市岩窪町500 Tel. 055-253-8144
境内に三条夫人の墓所があり、上記ご本尊の隣に立派な位牌も安置される。また、近くに信玄の墓所もある。
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資料
境内にある解説の看板