立川不動尊(山梨県笛吹市春日居町熊野堂)
平成4年、春日居町文化財に指定。
平成14年、山梨県指定有形文化財に指定。
檜材。一木造り。像高255センチ。髪際高231センチ。
頭体幹部を直径160cmの巨材から彫り出し、両脚部にも一材を使用。
平安時代11世紀の作と推定。
[参拝日=2021年2月28日など]
2月28日のお祭りで格子扉が開く
中央本線の石和温泉駅と春日居駅の真ん中あたり、熊野堂という名の桃の里に、開けっ放しの小さなお堂がある。中に入るとまあびっくり。丈六の大きなお不動さまが坐しておられる。思わず「ごめんなさい」と呟いてしまうほど恐ろしいお姿。それでいて、太い腕やお体を見ていると、心がほくほくしてくる。地方の木彫仏はあたたかい。私はこのお不動さまが大好きで、何度かお参りしている。昨年夏にもお会いしたばかりだが、毎年2月28日にお祭りがあると聞き、再び出かけてきた。
お不動様はいつもは大きな木製の格子扉の中におられる。しかし、2月28日の公開では、この扉が開かれていた。紅白幕を背に、堂々したお姿が目の前に現れた。いつもと違って、正装のお不動さまと言ってよいのか。格子に阻まれず、いつもと違うアングルでじっくりとお姿を拝むことができた。撮影許可もいただき、何枚も撮らせていただいた。
地元の人々に愛される大きな木彫仏は素敵だ。傷みや摩耗、拙い補修の跡さえも愛おしい。大きな腕にかすかに残る臂釧に心が震える。
近隣の仏像と関係性はあるのか?
春日居駅の反対側、桑戸地区には、やはり平安後期の五大明王像(県指定文化財)がまつられる。等身大の迫力ながら、平安後期の気品も漂うお像だ。平成に入って修理されたあと、しばらく東京国立博物館におられたが、今は桑戸地区の新しい建物に戻られ、地元の民を護っておられる。熊野堂の立川不動尊は今は単独像だが、かつては桑戸と同様、五尊でまつられていたのだろうか。春日居駅を挟んだ数キロ圏内にこれほど大規模な力強い不動明王像と五大明王像が残るとは、興味深い。
そして、立川不動尊を見上げていると、東京都日野市の高幡不動尊の不動明王像(重要文化財)が想起される。こちらも丈六の大きな木彫仏で、平安後期の作とされている。像の規模をみると立川不動尊はまったく遜色がない。
そもそも立川不動尊という名前は、東京西部・立川市の立川氏と関係があるのだろうか。多摩地区とのつながりはあるのだろうか。
コロナ禍での祭りと拝観について
今回のお参りにあたり、事前に笛吹市観光課に問い合わせたところ、「コロナ禍のため、いつものように露店の出店はない。前日の2月27日に神事のみを行い、28日の9~15時に不動明王像の公開を行う」ということだった。28日の"公開"というのは、"格子扉を開ける"という意味のなのか聞いてみたが、観光課ではそこまではわからないと言われてしまった。そこは仏像ファンとしては重要なポイントである。半信半疑ではあったが、2月28日が日曜日だったので、とりあえず出かけてみたところ、写真のような見事な「公開」であった。
私の住む東京の西端は緊急事態宣言下であったので、登山客で混みあう時間帯を避け、中央本線を鈍行電車で移動した。八王子からさほど遠くない。
現地に着くと、十数名ほどの人が集まっていた。皆さん地元の関係者のようだった。コロナ禍なので、地元の方々とおしゃべりするのは気が引けた。それでも、明らかに私だけ部外者の感じだった(小規模なご開帳ではよくある)ので、「市役所に電話で伺って、お参りにきました」と小声で伝えたところ、「あー、聞いてましたよー。おいでくだっさって、ありがとうございます」と大きな声でおっしゃってくださった。少し気まずい。でも、ありがたかった。お土産にお餅とみかんを手渡された。そして、「あとお札もあるのですが、いりますか?」と言われた。ありがたくいただいたこのお札が、私にはとてもとてもうれしかった。このお不動様のたくましくもかわいらしいお姿がたまらない。このお札は今、自室に大切におまつりしている。本当にありがとうございました。
地元の民に愛され、衆生を勇気づける大きなお不動さま。そんな光景に出会えるこの国はやはり素敵だ。来年の2月28日はもっと盛大にお祭りが開催されますように。またお参りさせてください。