ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【石仏】徳本名号塔をめぐる〜八王子編1〜


 先日、相模原市立博物館で、相模原市内に徳本名号塔が多数残っており、すべて市の文化財に指定されていることを知った。八王子市内にも残っているようなので、八王子郷土資料館に行き、下調べしたうえで、市内を巡ってみた。

徳本上人が八王子にやってきた

 徳本上人(1758-1818年)は、文化14年(1817)11月15日からの19日の5日間、八王子の大善寺に滞在したことが、『石川日記』に記されている。当時の大善寺は現在の大横町にあり、関東十八壇林の一つだった。『桑都日記』(巻之十四下編)には、「念仏行者徳本、桑都に来たり強化大いに行はる。徳本は紀州の人、念仏を専修し、郡国を周流し大善寺に寄寓すること数日。土人大いに化す。爾来、徳本講と称し、一派の念仏会あり」とある。
 徳本上人に因んだ念仏講の際に造立されたのが徳本念仏塔で、自然石の正面に「南無阿弥陀仏」と刻む。徳本上人の流れるような筆跡が特徴である。石の裏側には、造立年度や講の名称が刻まれる。

 私が八王子の徳本名号塔を巡ったのは2020年11月15日。徳本上人が桑都、八王子に入られてからちょうど203年後のことだった。旧暦と新暦の違いはあるものの、この偶然に胸が震える私である。

1) 八王子市裏高尾町(駒木野の小仏関所跡近く)

文政4年
35°38'28.0"N 139°15'52.3"E

 旧浅川町の石仏をまとめた資料において、裏高尾町駒木野514神明社の欄に掲載されていた名号塔である。神明社は見つからなかったが、幸いなことに、徳本名号塔は道端で偶然見つかった。当該資料の写真と同じ場所に今も安置されているようだ。保存状態もよい。
 小仏関所跡前のこの細い道は、高尾駅北口から出発する路線バスの通り道になっている。高尾山への登山者が使うバス という印象である。駅から蛇滝の登山口まで歩く人もいるようで、この日も登山客が何人か、徳本名号塔の前を通り過ぎていった。小仏関所を過ぎると、この石仏群の辺りから緩い下り坂になっており、これを念珠坂と呼ぶようである。
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2) 八王子市東浅川町・原宿会館前

文政4年
35°38'46.9"N 139°17'19.7"E

 資料に比べると、徳本名号塔も木喰正観もだいぶ摩耗してしまっていることがわかる。甲州街道の銀杏並木に面した、車の往来の多い場所にある。何度も通っているはずだが、これまでまったく気づかなかった。
 ちなみに、この石仏群のすぐ後ろは個人のお宅。徳本名号塔のすぐ後ろに、黒いスニーカーが干してあった。
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3) 八王子市東浅川町・原家墓地内

文政4年
35°38'31.3"N 139°17'33.2"E

 資料の「東浅川町三田775古道脇(原家墓地)」という情報のみを頼りに探した。この墓所の裏手は急な坂になっており、今は大きなマンションが立っている。最初そのマンションの方を探したが見つからなかったので、再度坂を下りて、西側のスターレーン(ボーリング場)の方に回り込むと、この墓所が見つかった。ちなみに、三田という地名は今はないが、近くに「三田町会」の掲示板はあった。
 原家墓所内、メインの墓石のすぐ横(正面右)に、この徳本名号塔は立っていた。墓所への畏怖と敬意から、墓地全体の写真は自粛し、徳本名号塔のみ写真を掲載する。
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4) 長泉寺(八王子市長房町1258)

文政7年
 長泉寺は多摩御陵の近くの高台にある、臨済宗南禅寺派のお寺。徳本名号塔は本堂前に静かに安置されていた。境内は狭いが清潔で、静かに落ち着いてお参りできる。一番下の「徳本」というところがかわいい。
 石平道人坐像(正三坐像)が市の文化財に指定されている。拝観させていただけるのだろうか。今度伺ってみたい。
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5) 船田町会会館(八王子市長房町)

 船田町会会館の敷地内にあるようなのだが、それらしきものが見つからなかった。事前に調べた資料に最も近いのがこの写真。今ひとつ文字が読み取れないし、しかもなぜか、今流行りのフィギュアがお供えしているようだった。
 資料のNo.68の徳本名号塔をご存知の方がおられたら、ぜひ所在を教えてください。よろしくお願いします。
(No.69-71の石仏は会館横の社に祀られていた)
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6) 長安寺(八王子市並木町)

文化14年
 今日お参りした徳本名号塔の中で最も古く、唯一徳本上人の存命中のものである。
長安寺は甲州街道沿い、西八王子駅高尾駅の間に位置する。曹洞宗のお寺であり、武相観音霊場の札所である。秩父から移されたと伝わる観音像がおられ、武相観音霊場のご開帳の際にお参りさせていただいた記憶がある。
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7) 真覚寺(八王子市散田町)

 境内の池の手前、石仏の並ぶ一角に安置。名号の上に円形の刻印があるが、これはなんだろう。しかも、造立年度がわからないので、また資料館に調べに行かなくては。現地では、塔の裏側に覆いがあるため、塔の裏側は確認できなかった。
なお、真覚寺の白鳳仏、薬師如来椅像(八王子市文化財)は、八王子郷土資料館で拝める。せっかくなので、薬師如来様の写真も合わせて添付する。
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8) 八王子郷土資料館(八王子市千人町・興岳寺)

文政10年
 興岳寺(八王子市千人町)の徳本名号塔が八王子郷土資料館の庭に安置されている。昭和25年以降に登場した赤い郵便ポストの前に置かれていて、少しシュールではある。郷土資料館は来年3月に移転する。資料館の庭には、これ以外にも庚申塔二宮金次郎像などが展示されているので、すべて無事にお引越しされることを願う。
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9) 龍見寺(八王子市館町)

文政4年
 龍見寺といえば、大日如来坐像(東京都文化財)が大好きで何度もお参りしている。しかし、まさにその大日堂に登る階段の手前にあるのが、徳本名号塔だとは知らなかった。手入れの行き届いた、美しい名号塔である。
 こちらの名号塔の写真は、さる10月30日に大日如来坐像が公開された際、撮影したもの。せっかくなので、大日如来様の凛々しいお姿も貼りつけておく。その美しさに唸るべし。
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また調査に行きたい

 南無阿弥陀仏と書かれた石をただ巡るだけ。それだけなのだが、とても癒された。あの流れるようなお茶目な名号を見ると、思わずにっこりしてしまう。そして、十円玉をお供えし、お十念をつぶやく。
 八王子市内にはまだこれ以外にも徳本名号塔は存在する。○○橋の近く、というような曖昧な情報もキャッチしている。なんとか見つけたい。
 今度はできれば少しのお花をお供えしたい。そして、メジャーを持っていって、石の採算をしたい。

参考資料

○紺野英二「屋外展示の石造物”徳本念仏塔”」
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○縣敏夫 編著『八王子市 旧浅川町の石仏と地誌』
○八王子石仏の会『旧横山村石仏調査報告書』1998年
相模原市文化財には、市内の徳本名号塔が詳しく紹介されている。例えば、このサイトを見ると、上人が1817年11月19日に原当麻無量光寺に到着したことがわかる。八王子市の資料とよみあわせると、八王子の大善寺を出立して、無量光寺に向かったことがわかる。
38.無量光寺の徳本念仏塔(むりょうこうじのとくほんねんぶつとう)|相模原市