ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【展覧会】「相模川流域のみほとけ」神奈川県立歴史博物館は必見

相模川流域のみほとけ」神奈川県立歴史博物館 2020年10月10日(土)~11月29日(日)

f:id:butsuzodiary:20201013101607j:plain
龍峰寺千手観音立像(写真は展覧会サイトより) 間近で拝観できる! 凛々しい!!
公式サイト=【特別展】相模川流域のみほとけ Buddhist Statues Along Sagami River | 神奈川県立歴史博物館
f:id:butsuzodiary:20201015002732p:plain
展覧会チラシ 普門寺(旧城山町聖観音立像が美しい!
 相模川流域にこれほど重要な仏像が残されているとは。自宅からそう遠くないので、ご開帳や文化財公開などで比較的よくお参りしている地域だと思っていたのだが、本展では檀家寺の秘仏も多く出陳され、ほとんどが初見の仏像だった。全国の仏像ファン必見の展覧会である。

龍峰寺の千手観音立像

 会場に入ると、まず、龍峰寺の清水式千手観音立像がどーんとお出ましになる。年に2回ご開帳日があるが、現地ではお堂が狭いせいもあり、堂外から拝むことしかできない。それが、本展では、間近で、しかも、背面までしっかりと拝むことができる。展示台もガラスケースのないので、かなり近くで拝める印象だ。間近で拝観すると、実に神々しく、凛々しい!  しかし、驚くのはそれだけではない。図録を読むと、鎌倉時代の擬古作説を否定し、奈良時代後期に遡る可能性を示唆している。数年前にご開帳で伺ったときの情報では、玉顔の入ったご尊顔は鎌倉彫刻の特徴を示し、膝には翻波式衣文や渦文があることから、鎌倉時代に古い仏像を模して造られたものか、あるいは、後世に大幅な修復が加えられたかのいずれかだ、という話だったように思う。仏像研究は日々進んでいる。図録より引用したい。
相模川流域で最も古い仏像は、海老名市龍峰寺の千手観音立像(No24)であろうか。疑問符がつくのは、この龍峰寺像は長らく鎌倉時代の作例とされており、奈良時代の仏像とは認識されていなかった。しかし、本展の事前調査において、像の像を熟覧したところ、カヤ材を用いた一木造りの構造や裾の衣文に翻波式衣文が認められる点に奈良時代後期の木彫像との共通点が多く見受けられたのである。脇手は全て後補とみられ、現状の目の部分に平安時代後期以降の技法である玉眼が用いられるのは、鎌倉時代に面部を割り離して玉眼に改造されたからではないだろうか。奈良時代造像の可能性についても考えていかねばならないだろう。(展覧会図録の冒頭「相模川流域の仏像」海野祐太より)
 もうこれを読むだけでドキドキする。図録の図版解説では、奈良時代後期と考える根拠について、さらに詳しく記載されているので、ぜひお読みいただきたい。

津久井郡の顕鏡寺と普門寺

 旧津久井群の顕鏡寺(相模原市緑区、旧津久井町)の阿弥陀如来坐像と普門寺(同、旧城山町)の聖観音立像。コロナ禍となり、自宅から自転車圏内で仏像を調べ出したのだが、この二つの尊像は、そうした活動の中でその存在を知り、最もお会いしたかった秘仏である。なんと、どちらも出展されている! どちらも平安後期。  顕鏡寺の阿弥陀如来坐像は定朝様。弥陀定印の人差し指のわずかな捻りにしびれてしまう!  普門寺の観音立像は小顔の神秘的な表情と体部の穏やかな衣文が印象的だ!  顕鏡寺は石老山の中腹にあり、柳原白蓮の墓がある。普門寺は津久井湖を見下ろす高台に位置し、現在、観音堂を修復中。この神秘的な観音様は武相観音霊場に当たり、卯年ご開帳(次回は2023年)。つまり12年に一度の秘仏。展覧会終了後には、お寺をお参りしたい。

宝積院薬師堂(平塚市薬師如来立像と十二神将巳神立像

 本展のメインビジュアルになっている薬師如来。宝積院薬師堂の秘仏本尊なのだそうだ。十二神将巳神像(伝酉神像)は曹源寺(横須賀市)のそれとよく似ている。先日、山本勉先生に教えていただいた先生の著書『東国の鎌倉彫刻』に曹源寺像の写真が載っていたので、会場で本を出して、見比べてみた。すると偶然にも、山本先生が展覧会場に入って来られた。あまりの偶然に驚いて、失礼かと思いつつもご挨拶させていただく。短く感謝をお伝えするだけつもりが、巳神像と薬師如来立像の耳の形がよく似ることなど、教えていただいた。養命寺(藤沢)薬師三尊と光明寺(平塚)三十三応現身立像についても、教えていただき、ありがたくて言葉にならない。  なお、十二神将は鎌倉永福寺の運慶像をモデルとしたものが数多く造られているようで、興味深い。前回ここに書いた新開院(あきる野)の巳神像もよく似ているのだが、それを以前教えてくださったのも山本先生だった。

多くの秘仏、そして、在地仏師の仏像も

 上記以外にも秘仏が多く出陳される。井原寺(相模原市緑区聖観音立像、正覚寺相模原市緑区聖観音立像、慈眼寺(藤沢)十一面観音立像など、いずれも秘仏で、鎌倉時代の作。  さらに、12世紀の在地仏師の造立例として、延命寺(厚木)の菩薩立像二躯と法照寺(藤沢)の十一面観音立像が並ぶ。この緩い感じがまたよい!  ここまでで、展示の最初の3~4割。素晴らしい仏像の連続で、書き出すと止まらなくなる。続きはまたのちほど。この展覧会、これから何度か通いたい。

参考文献

1) 『特別展 相模川流域のみほとけ』神奈川県立博物館2020 2) 山本勉『東国の鎌倉時代彫刻』(『日本の美術』537、2011年)

関連ブログ記事

a) 龍峰寺ご開帳寺の参拝記録 butsuzodiary.hateblo.jp b) 普門寺(相模原市緑区)に行ったら、観音堂がシースルーだった butsuzodiary.hateblo.jp 2020.10.11鑑賞