ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【神奈川】相模国総社六所神社(大磯町)の神像を拝む

 1月3日にのみ公開される神像を拝むため、神奈川県大磯町にある相模国総社、六所神社に出かけてきました。
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 女神像が70センチ弱、男神像が75センチほど。一木造りで、背中から大きく内ぐりあり。11世紀末~12世紀前半。

1) 今回は無駄に前書きが長い。箱根駅伝だから。

 公開日の1月3日は箱根駅伝の復路が行われる日だ。駅伝についてはほぼ無知な私だが、大磯の近くを通ることくらいは知っている。周辺の混雑は心配だったが、それなら駅から徒歩で行けばいいやと思い、家を出た。駅伝とは基本的には無縁だと思っていた。
 ところが、びっくり。最寄り駅である東海道線二宮駅に着くと、なんと、駅伝の応援の声が聞こえてきた。なんと、なんと、駅前の交差点を駅伝ランナーが走っていくではないか! 本物の箱根駅伝が目の前に!
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 そのとき急に私の応援スイッチが入ってしまった。わが娘の駅伝を応援したときの高揚感がよみがえってきたのである。彼女は弱小陸上部の部員だったが、応援するのは楽しかった。そんなわけで、どこの誰だかわからない選手に思わず応援の声をかけてしまった。あとで調べてわかったのだが、私が到着した朝10時前頃は、箱根7区の下位の走者がちょうど走り抜けていくところだったらしい。私が応援したのは山梨学院大学の選手(奄美出身の川口竜也くん)だったようだ。川口くん、二宮駅前で「がんばれ~!」と叫んだのは私です。瞬時に走り抜ける姿、貴く感じました~
 前書きが無駄に長くなってしまったが、ほんの数分間だけテンション高く駅伝の応援をしたあと、駅前からバスに乗り込み、神社へと向かった。そして、なんと、私が尊敬する仏像ブロガーの桃さんと偶然バス停で会い、ご一緒させていただくことになった。やったー。お正月3日の朝から、思いもよらぬ幸せな偶然が続いた。ほどなくバスは動き出し、箱根駅伝のルートを進んだ。応援を終えた人たちが歩道を歩いていくのが見えた。渋滞もまったくなく、神社に到着できた。

2) ついに本題。六所神社の神像について

 さて、本題に移ろう。
 六所神社は、第十代崇神天皇の頃、出雲地方から移住した氏族が祖神である櫛稲田姫命(くしいなだひめのみこと)様をまつったことに始まる。大化の改新の後、相模国の総社として現在の場所に遷座し、他の五社(一之宮=寒川神社、二之宮=川勾神社、三之宮=比々多神社、四之宮=前鳥神社、および平塚八幡宮)を合わせまつって六社神社と称するようになった。
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 六所神社の社殿でお参りすると、大きな注連縄が目を引いた。これは島根の出雲大社の注連縄を手がける職人の手によるもので、昨年末に5年ぶりに新調したばかりなのだそうだ。大きくて新しい注連縄が清々しく感じられた。

 公開されるのは六所神社に伝わる女神像と男神像の2躯。本殿の一番奥に安置されていたのだが、神奈川県立歴史博物館「神々と出逢う―神奈川の神道美術―」展(2006年年2月18日~5月7日)の準備のため、同館の学芸員が調査に入り、日の目を見ることとなった。同年、大磯町の文化財に指定されたあと、2009年に神奈川県の重要文化財に指定。両像とも洗練された作風が共通し、制作時期は11世紀末から12世紀前半と考えられている。

2-1) 木造 女神形立像(じょしんぎょうりゅうぞう)

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 68.1センチ。一木造り。六所神社では、主祭神である櫛稲田姫命さまとされる。両肩に下がった髪の毛が可愛らしい。お腹の前でゆったりと結ぶ着衣の形が女性の天部のようで、吉祥天さまが好きな私はどきどきした。男神像より像高は小さいが、脚の下の方が失われているので、実際にはもう少し高さのある像だったのだろう。

2-2) 木造 武装神形立像(ぶそうしんぎょうりゅうぞう)

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 75.1センチ。一木造り。小顔ですらっとしたお姿。甲冑と天衣をかっこよく着こなし、腰をひねる。
 大磯町のガイドさんいわく「奈良の興福寺の阿修羅さまに引けを取らない美男子」とのこと。別に比べなくても、それぞれの美しさがあると私は思うのだが。そう言いたくなってしまうほど、この神像がかっこよく美しいということなのだろう。そして、悩んでいるようにも見えるところも阿修羅様と似ているのかも。ガイドさんの自慢げな説明に拍手を送りたい。六所神社では、櫛稲田姫命さまの夫、素盞嗚尊(すさのおのみこと)さまだと考えられている。

 また、ガイドさんに写真を見せていただいたのだが、両像とも大きく内ぐりが施されている(下記参考資料にある「観仏日々帖」サイトに写真がある)。

2-3) 神像特有の異相表現

 境内に説明の看板があり、そこに大変気になる文章が書かれていたので引用したい。

武装神形立像は甲冑を身につけ、腰を絞り動勢をみせる立ち姿、女神形立像は髻を結った髪を両肩に垂らし、唐衣を着て直立した姿をしています。両像とも形姿は仏教的ですが、純粋な仏教尊像とは異なる苦悩・瞑想などともとれる神像特有の異相(いそう)表現を看取することができます。

 私が気になったのは後半の部分。形姿は仏教的だが、その一方で、神像特有の異相表現が見られるという点である。つまり、天部の仏像と同じように見えても、その表情は仏像とは異なるということなのだろう。仏像か神像かを見分ける点がそこにあったとは。 私には難しすぎる! 理解できているとは思えないが、今後は「苦悩・瞑想などともとれる神像特有の異相表現」に注意して、神像を見るようにしたい。

2-4) 神話の中の櫛稲田姫命と素盞嗚

 この女神と男神は夫婦なのだそうだ。二人の物語は六社神社のサイトに次のように書かれている。

 六所神社の大神様、櫛稲田姫命様は、出雲国にお生まれになり、少女の頃、永年人々を苦しめていた八岐大蛇という怪獣に命を狙われ、絶体絶命の時、須佐之男命様という力強く荒い神様が救いに現れました。
 大神様は、自らを本性なる奇魂(周囲に不思議な現象を起こす力)に身をかえ、強い霊力となられて、須佐之男命様の力となり、みごと八岐大蛇を退治なされました。

(中略)

 この御神縁によって須佐之男命様は荒魂を和らげ、より強く尊い神様となられ、大神様に求婚され、大きな宮居を造り、何人もの尊い神様をお産みになられました。これは、須佐之男命様の強い荒魂に、大神様の必死の奇魂が合致し、誠に大きな霊力が生まれたことにあり、奇櫛は、女性の命であり、奇魂の璽であります。

 普段、阿弥陀さまを追いかけている私には、なかなか激しい話だ。お守り授与所には、櫛稲田姫命さまの強い霊力を込めたお守りが並んでいた。櫛の形をしたお守りだった。こちらの神様は女性の強い味方のようだ。

2-5) 拝観の環境

 社殿横の宝物殿で毎年1月3日9:00~17:30に公開される。無料である。
 宝物殿で近くで拝めるが、ガラス越しのため光の反射が強く、見えやすいとは言えない。正面から覗き込むだけでは、自分の顔しか見えない。まるで鏡である。せっかく来たのだから、なんとか自分の目でお姿を確認しようと、いろいろな角度から果敢に攻めてみた。神像なのだから、簡単にお姿を拝もうとする自分がいけないのだと思うことにした。努力してお姿を拝むことに価値があるのだろう。
 写真はもっと残念で、こんな感じでしか撮れなかった。人の写り込みを避けたつもりが、向かい側の木が思いっきり写りこんでいた…。
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 私が訪れたのは午前10時すぎで、晴天だったため、余計に光の影響を受けたのかも。午後の遅い時間帯や曇天や雨天の日のほうが見やすいかもしれない。再度チャレンジしたい。17:30まで開いているのだから、夕方がねらい目かも。箱根駅伝ファンも両立可能な時間帯である。

【注意!】2020年の公開は1月3日9-17時(17:30までではない)。そして、神像保護のため、今後当面の公開は見合わせるそうです。。。(2019.12.28追記)

参考サイト

〇一緒におまいりした桃さんのブログ 私は大ファンです!
momococks0505.blog106.fc2.com

〇観仏日々帖 古仏探訪~神奈川県大磯町・六所神社の御神像に初詣
観仏日々帖 古仏探訪~神奈川県大磯町・六所神社の御神像に初詣 【2015.1.3】
詳しい説明、勉強になります!

〇Web版 有鄰 座談会 かながわの神道美術—神奈川県立歴史博物館特別展示にちなんで—
http://www.yurindo.co.jp/static/yurin/back/yurin_459/yurin.html
上記で言及した2006年の展覧会に関する記事です。大磯町高来神社の木造神像群が気になります!