ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【山梨】大善寺ぶどう薬師さまのご開帳(2018年)

大善寺のご開帳!

 山梨県甲州市勝沼大善寺で5年ぶりの秘仏薬師三尊ご開帳があり、お参りしてきた。
 大善寺は養老2年(718年)、ぶどうを手にした薬師如来を感得した行基がその姿を刻み安置したと伝わる古刹である。今年は開山1300年のメモリアルイヤーでもあった。2018年のご開帳は10月1~14日の二週間。私は7日の朝一番にお参りした。

秘仏はご本尊の薬師三尊!

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(↑写真は大善寺リーフレットより)
薬師如来坐像86.7cm、日光菩薩立像102.6cm、月光菩薩立像101.8cm。三尊ともにサクラの一木造りで、重要文化財

 私はとにかくこの三尊が大好きだ! 平安時代の優しさと安定感を放つ秘仏薬師三尊。にこやかに、ゆったりと坐す薬師さま。どっしりした威厳がありながら、かわいらしくもある。
 片手を下に垂らし、手の甲を翻す日光月光菩薩立像はチャーミング。リズミカルなその動きに私の心も踊り出す。
 5年ぶりのご縁が本当にありがたい。
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(↑写真は大善寺HPより。にこやかゆったりの薬師さま! 大好き~)
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(↑某書籍に掲載の写真をコラージュ。かわいい!)

蓮慶の十二神将と日光月光菩薩立像!

十二神将(1227年 145.9~138.2cm 桧の一木造り及び寄木造り 玉眼)
日光月光菩薩立像(1227年 日光菩薩248.0cm、月光菩薩 247.0cm 桧の寄木造り 玉眼)

 秘仏薬師三尊のおられる堂内には、さらに、140センチ前後の十二神将と250センチ弱のもう一組の日光月光菩薩立像が一直線に並ぶ。なんとも壮観だ! 秘仏三尊を含め、これら17躯すべてが重要文化財。諸仏の住まわれるお堂は国宝である。
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 (↑写真は甲州市観光協会Twitter 2018.10.3より)
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(国宝の薬師堂は1286年に建立。堂内の厨子も国宝で1355年のもの)

 秘仏本尊の両側に並ぶこれらの十二神将と日光月光菩薩立像は、鎌倉時代1227年、慶派の影響を受けた蓮慶という仏師によるものと考えられている。
 近年の十二神将の調査で、江戸時代の修復による塗装を取り除いたところ、武田信玄の時代の赤い彩色が現れた。通常の保存修理では、制作当時の状態に戻すのが基本だが、この十二神将はそのようにせず、戦国時代の彩色を残すことにしたのだそうだ。したがって、大善寺十二神将は今も、武田軍と同じ赤色を身にまとっている。鎌倉時代の彫刻に戦国時代の甲冑の赤色という組み合わせは感動的だ。
 十二神将はそれぞれ個性的だが、仏像ファンに特に人気なのが因達羅大将だ。この像だけなぜかノースリーブで、筋骨隆々の腕をさらけ出している。

 2メートル超の長身の日光月光菩薩両立像は、文永7年(1270年)に火災で堂とともに焼失した「新丈六仏」の脇侍像であった可能性が指摘されている。丈六薬師が坐像であれば、脇侍の立像としてふさわしい大きさである。

 仏師の蓮慶は、甲斐で活躍した仏師なのだろうか。他の作例としては、山梨県笛吹市・福光園寺の吉祥天坐像と持国天多聞天立像の三尊像が知られる。以前、予約して拝観させていただいたのだが、吉祥天さまは強くて優しく、それを支える二天像もまた強くてかっこよかった。元気をくれる三尊なのである。
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(↑2014年11月参拝時。写真ボケボケですみません)
 大善寺の蓮慶仏は秘仏ではないので、いつかまた、開帳以外の静かなときに、のんびりお参りしたい。その時は福光園寺も合わせてお参りし、蓮慶仏を堪能したいものだ。

大善寺と言えばぶどう!

 勝沼行基が薬としてぶどうの栽培を始めた場所とされ、本尊の薬師さまもぶどうの房を手に持っておられる。勝沼駅から臨む盆地には幾つものぶどう園が広がり、大善寺でもぶどうの栽培とワイン醸造も行っている。私はワインは飲めないが、ぶどうが大好きで、ぶどうをぜいたくに使ってスムージーにしたりする。つまり、大好きな仏像と大好きなぶどうが存分に楽しめるのが大善寺勝沼なのである。秋に大善寺を参拝できるのであれば、近くのぶどう園で新鮮で美味のぶどうを安く買い、行基さんを思いながらいただくことを提案したい。
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(↑インスタ映えをねらったのか、ぶどうがオブジェのように並べられていた)

ご朱印ご朱印

 今回、特別ご朱印が授与されていたが、そこにもぶどうが描かれている。
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 前回のご開帳のとき、一目惚れして購入した大善寺ご朱印帳にも、当然のごとく、ぶどうがデザインされている。
 特別ご朱印は書き置きのみなので、さっそくこの大善寺ご朱印帳に貼り付けた。
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 このご朱印帳には、山梨県限定でご朱印を受けるというマイルールを課している。山梨は仏像を宝庫。これからものんびりと巡りたい。

5年という時間

 個人的なことを少し書くと、5年前のご開帳のとき、我が家は何かと大変だった。大切な家族が前年に病に倒れ、長期入院していた。看病する私も心身の過労でしばらく動けなくなり、やっと立ち直りつつある時だった。5年前、無理して出かけた大善寺で、この薬師三尊さまと近くのぶどう畑の光景と香りに癒やされ、元気づけられた。今もとてつもなく感謝している。私が立ち直るきっかけだったように思う。(今でも書きながら涙ぐんでしまう…)
 そして、今回、5年前に入院していた家族と一緒に大善寺のご開帳にお参りすることができた。大善寺のあと、放光寺と恵林寺をお参りし、ほうとうをいただいて、ぶどうをたくさん買って帰ったのだが、その間ずっと夢をみているような不思議な感覚だった。それほど家族の病気はつらかったし、ご開帳日の勝沼の空はどこまでも青かった。家族の笑い声が青空に吸い込まれていく。それがとても不思議だった。人知の及ばない何かを感じずにはいられなかった。
 5年ごとのご開帳は人生を振り返る機会にもなる。

 なお、5年前の拝観記録はこちら(↓)から。
ぶどう寺、大善寺のご開帳: ぶつぞうな日々 PARTII