※仏像の写真撮影は管理人様から許可を得ています。
はじめに
みかえり阿弥陀さまと言えば、京都の永観堂が有名です。
東大寺別当まで務めた高僧・永観が、1082年の寒い冬の夜、阿弥陀如来像の周りを念仏を唱えながら行道していると、阿弥陀さまが須弥壇から降りて永観の前に立ち、左肩越しに振り返って、「永観、遅し」と言われたーー。その時のお姿を留めたお像が、永観堂のみかえり阿弥陀さまです。阿弥陀さまファンでなくても、胸がきゅんとなるこの伝説と、平安後期の優しく気品のあるお姿が、多くの人の心をつかんでいます。
みかえり阿弥陀像と言えば、この永観堂だけかと思いきや、なんと、群馬県高崎市にもおられると聞き、お参りしてきました。
お寺ではなく、地元の方々が管理される万日堂という小さなお堂に、その阿弥陀如来立像はおられました。
万日堂とは
万日堂は高崎駅から西へ3~4キロ 。君が代橋を渡ってすぐです。元々国道18号(旧中山道)南側に建っていたものを、豊岡バイパス開設のため、昭和56年に移設したそうです。
高崎市文化財課から管理人さんの連絡先を教えていただき、拝観の予約をしていたところ、元管理人(90歳)と現管理人のお二人がお堂を開けて待っていてくださいました。恐縮しつつ、お堂にあげていただきました。
(↑川の向こう岸に小さく見える万日堂)
(↑猛暑の中、橋を徒歩で渡ると、堂内を開けていてくださっているのが見えてきました)
ご本尊みかえり阿弥陀さま
高崎市のみかえり阿弥陀さまは、桧の寄木造りで、玉眼を嵌めます。室町以前までの作と見られ、永観堂の阿弥陀像よりも時代は新しいですが、近くでお会いすると、写真で見る以上に美しかったです。
像高83センチ。永観堂より大きめです。みかえり阿弥陀さまの作例は珍しく、他に山形・善光寺、富山・安居寺が知られるのみとのことでした。
上の写真をご覧ください。みかえり阿弥陀さまのお足元に額入りの写真があります。よく見ると、来迎印を結んだ両手が付け足されています。お像の現状では、両手が失われているので、かわいそうに思ってこのような試みをしたのでしょう。「新たに手を加えると文化財としての価値が下がってしまうので、それは難しいらしい」と管理人さんは言われました。ただ、信仰の対象でありますし、何より普通の人間の感情として、手がないことは寂しいですよね。そんな心理的な隙間を埋めようとしたのが、お足元の写真なのだと思いました。
このみかえり阿弥陀には、盗難を免れた話が伝わっています。明治の頃、転売目的で盗み出そうとした男が、君が代橋を渡る途中で急死したのだとか。さらに、大正時代にも、盗み出した男が君が代橋で雷に打たれ、死亡したのだとか。いずれの時も、阿弥陀さまはご無事でお堂に戻られたそうです。美しいお姿からは想像しえない、勇ましいエピソードです。
私は衣の金色の模様も気になりました。こういう金色の模様は近世の頃の特徴なのですか。都内の他の像でも見たことがあります。美しいです。この模様は江戸時代以降に追加された可能性もあるかもと考えました。
万日堂の他の二像
万日堂には、みかえり阿弥陀さまの両脇に、如来立像がまつられています。私にはどちらも阿弥陀さまに見えましたが、いかがでしょう。阿弥陀ファンなので、バイアスがかかっていますか!?
向かって右のお像は見るからに江戸以降でしょうか。現世話役さまはこちらのお像のお顔が好きだとおっしゃっていました。確かになかなかの美男子です。
左の如来像は衣がつるつるです。引き締まった凛々しいお顔です。修復が入っているのかわかりません。
高崎市内の他の阿弥陀如来像
高崎市には善念寺と来迎寺にも市や県の文化財になっている阿弥陀如来立像がおられます。善念寺さまをお参りしました。堂外からの拝観となりましたが、写真を載せておきます。
また機会があれば、来迎寺さまもお参りしたいです。
新田義貞の阿弥陀如来立像が東京・府中に
高崎の阿弥陀さまをめぐりながら、東京・府中市の上染谷不動堂に伝わる新田義貞の阿弥陀如来立像(国の重要文化財)を思い出していました。義貞が鎌倉幕府の倒幕を目指し挙兵する際、故郷の上州から持ってきたと伝わる像です。善光寺式の小さな銅像です。私は阿弥陀さまの大ファンなので、旅先で阿弥陀さまにお会いすることが多いのですが、このように各地の点と点がつながる瞬間が時々あり、大変興味深く思います。
義貞ほど激しくはなくても、私たちは何かと戦い・闘いながら生きているわけで、阿弥陀さまへの祈りは昔も今もあまり変わらないのではないかと思います。府中の分倍河原駅前にある新田義貞像は私には馴染みのある像でして、なおのこと感じるものがありました。
東京都府中市の義貞の阿弥陀様を拝観したときの記録は下記リンクより。
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感謝
万日堂拝観の機会をくださった管理人さんに感謝いたします。一期一会に感謝いたします。