碧海寿広『仏像と日本人 宗教と美の近現代』(中公新書2018年)
7月25日に出たばかりの新刊書を一気に読了。あまりに面白すぎた。
仏像が好きと言うと、「美術として好きなのか、それとも信仰心からなのか」と聞かれることが多い。そのたびに答えに窮してきた。どちらも嘘ではなく、二者択一できるものではない。美術的に優れているから、仏教の教えがすっと伝わることもあるだろう。でも、だからといって、現世利益を願ってやみくもに神仏に頼りきる訳でもない。
そんな私の根底に、明治以降のフェノロサ、岡倉天心、和辻哲郎、亀井勝一郎、白洲正子といった論陣の考え方があったのだと、初めて気づくことができた。
この本によると、江戸時代までは仏像はあくまで信仰の対象として捉えられ、美術として論じられることはなかった。美的価値が認められるようになったのは、明治元年の神仏分離令のあと、フェノロサが登場して日本の古仏像の美術的価値を指摘してからだった。この本では、フェノロサ以降、和辻や亀井、白洲といった論客や、土門拳や入江といった写真家、さらにはみうらじゅんといとうせいこうまで、さまざまな人の活動を紹介し、それぞれの仏像との関わり方を明らかにしている。
仏像という彫刻を見に行ったのに、その神々しさを前に合掌せざるをえなくなる現象。それが私がかつて経験したことであり、多くの日本人も経験していることなのではないだろうか。
この本で残念なのは、奈良や京都の中央仏への視点に留まっていて、地方仏が抱える問題に言及していない点である。丸山尚一にも言及すべきであった。地方にも優れた仏像が多数あり、過疎化で継承が難しくなっている現状も分析して欲しかった。著者は1981年生まれの若手であり、仏像の本を書こうと思ったのも、一昨年の奈良の「忍性」展のときだという。つい最近ではないか! 続編を期待したい!
追記
もし続編があれば、よっくんと仏像リンクさんの活動にも言及してください。地方仏の魅力をわかりやすく楽しく伝えようとする活動は、SNS時代の新しい動きとしてもっと注目されてしかるべきだと思います。