ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【来迎会】大阪・常光寺の八尾地蔵練供養~鬼さん登場の怖くて楽しい練供養!~

お参りしたお寺=大阪府八尾市の常光寺(八尾地蔵練供養)
お参りした日=2018年4月30日

 大阪の八尾市という、私のこれまでの人生とは一切接点のない場所へ出かけてきた。常光寺というお寺で、年に一度、練供養が行われるからだ。世間的には、河内音頭の発祥地ということで有名らしいが、そもそも河内音頭が何かさえ私は知らない。
 だが、しかし…! このお寺の練供養に私はとても感激した。それは下町のあたたかいお祭りだった。北海道生まれの練供養ファンが八尾常光寺の練供養をレポートする。
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常光寺とは

 奈良時代聖武天皇の勅願所として創建。平安中期には、本尊地蔵菩薩が霊験あらたかであることから、白河天皇が参詣。それまで新堂寺と称されていたが、足利義満が「常光寺」「初日山」の扁額を奉納したことから、初日山常光寺と呼ぶようになった。近鉄八尾駅から、昭和感満載のアーケード商店街を抜け、徒歩8分ほど。臨済宗南禅寺派


八尾常光寺の地蔵菩薩さま

 ご本尊地蔵菩薩さま(立像)は、寺伝によると、平安時代初期の820年頃、六道の辻衆生を救う地蔵菩薩にお会いした小野篁が作ったものとされる。
 等身大の木彫像で、「袖口の彫りが深く、衣文の表現にも古風な手法がうかがえる」(常光寺サイトより)が、八尾市の文化財サイトによると南北朝時代の作とされる。寄木造り。玉眼嵌入。市指定文化財
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(写真は八尾市のサイトより)


大般若会(八尾地蔵練供養)

 2018年4月30日の八尾地蔵練供養を振り返ってみよう。

15:00
 女性の司会者のアナウンスで練供養開始。まずは、市長挨拶を司会者が代読。その後、寺歴紹介。

15:02
 本堂横の部屋から、まずは赤鬼さんが登場。境内には、長さ50メートル、高さ2メートルの橋が渡されている。本堂の右端と左端をつなぐこの橋で、次々とお練りの列が進む。
 赤鬼と青鬼さんは歩きながら、うぉーっと声を張り上げ、かっこよくポーズを決める。
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 その後に続くのは恐ろしい閻魔大王…。のはずだが、なぜかこの閻魔さまは物腰が穏やかで、弱気な役人風。動きもなんだかふわふわしてて、思わず笑ってしまった。すみません、閻魔さま! 
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 閻魔さまに気を取られていると、練供養の見物に来ていた小さな男の子が泣き出していた。やはりお子さんには、鬼さんと閻魔さまがものすごくこわいようだ。パパに抱っこされて、かなり本気に泣いている坊やのかわいらしいこと。子どもには本当にこわいのだ! 自分は大人で本当によかった!!
 閻魔さまのすぐ後ろに、楽人が4人続く。それぞれ異なる種類の笛で演奏。雅楽の生演奏は気持ちがよい!
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 この後には、お子さんたちの列が続く。まずは、僧侶の格好をした少年が5人。八尾では、なぜか「親鸞さん」と呼ばれている。ちなみに、常光寺は臨済宗南禅寺派だ。なぜ親鸞さんが少年の姿で5人も必要なのだろう。その後には、「お稚児」さん(女の子)と「小坊主」さん(未就学児ぐらいのたぶん男の子)が何人も続く。
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(↑常光寺の公式サイトより)
 親鸞さん、お稚児さん、小坊主さんたちは、橋を渡りながら、少しずつ散華をまく。一人の親鸞さんが一枚ひらひらと散華を橋上から落とし、「おばあちゃん、拾えた?」と叫んだのには思わず吹き出した。おばあちゃんは「うん、ほら、拾えたよー」と嬉しそう。それを見ていた見物の人たちも嬉しそうだった。
 一方、小坊主さんは親鸞さんよりかなり幼い。パパとママに手を引かれながら、始終泣き通しで橋を渡る小坊主さんもいた。年齢は2、3歳だろか。
 お子さんたちはコスプレしてはいるものの、菩薩面をかぶってないので、写真掲載は自粛するが、このお子さんたちの列はかなりかわいい。見物人のほとんども、お稚児さんたちのご家族のようだ。車椅子のおばあちゃまもおられた。家族でよい思い出を刻まれたことだろう。

 そして、ついに、仏さまたちが登場する! 

15:15
 最初の如来さまが登場。
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 如来さま7尊がそれぞれ異なる持物を手に、橋をわたられる。
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 他の練供養(二十五菩薩来迎会)とは異なり、常光寺さまに登場するみほとけは、最後の地蔵菩薩を除き、菩薩ではなく如来と呼ばれている。意匠的には菩薩かと思うのだが、如来と呼ばれるのには何か理由があるのだろう。常光寺のみの特徴と言えるのではないか。
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 如来さまのファッションはやや個性的だ。お面はお体に対して少し大きめ。上半身には、昔のブラウスを改良したようなものを身に付け、下半身にはやはり昔気質のロングスカートのようなものを履かれている。この手作り感がたまらない。
 ただ、如来さまの茶色の靴下と生足が時々見えてしまうのがかわいそうに思えてしまう。せめて長靴下にするのはどうだろう。いや、それは衆生のつまらないこだわりか…。
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 如来さまたちは介添え人もなく、ゆるゆると進む。みほとけのトリを務めるのは、白いお顔の地蔵菩薩さま。常光寺練供養の主役である。左手に錫杖、右手に如意宝寿を持ち、地獄へ亡者を救い行かれるお姿だ。
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 地蔵菩薩の後にはお坊様8人が散華しながら続き、練り行列の往路は終了した。
 加古川の西方寺や大阪平野の大念仏寺などのように、練り歩く各菩薩のお名前を紹介するアナウンスはなく、どの方がどの如来だったのかは分からなかった。七如来さまと地蔵菩薩さまということしか、わからなかった。

15:25
 練供養の列の最後の僧侶が本堂に到着。私も本堂に近づいてみると、堂内には稚児やみほとけの姿はなかった。本堂では、10名を超える僧侶による大般若会の法要が始まった。如来さまたちは、練り行列の復路(練り返し)に備え、控え室で休まれているのだろう。法要はまずは般若心経からスタートした。やや高速で般若心経が唱えられる。

15:30
 本堂前にて、般若経の教典を僧侶から肩に当てていただく加持祈祷が始まる。
 先ほどまで練り行列を見て、笑ったり泣いたりしていた人たちが、司会者のアナウンスに従い、本堂前に集まり、次々と加持祈祷を受けていく。「願い事のある方は本堂前にお集まりください」というアナウンスが印象的だった。厳粛な雰囲気の中、参拝者が次々と肩に経典を当ててもらっていた。
 その間、堂内では、僧侶が大般若経を扇子のように広げる仕草を続ける。
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15:40
参拝者への加持祈祷が終わり、堂内では僧侶による法要が続けられる。念彼観音力!
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15:50
練り行列の復路、いわゆる練り返しが始まる。赤鬼と青鬼、閻魔さま、如来さま、地蔵菩薩さま、稚児さんたち、という順番で列が続く。

16:05
練返しの途中、稚児さんたちが橋の全体に並んだ辺りで、餅巻きタイム開始。
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16: 07
餅巻きの終了をもって、練供養は終了となった。

感想

 
地蔵菩薩が主役の練供養。地蔵菩薩は地獄に落ちた人を救いに来てくださる仏さまだ。最初に地獄を代表する鬼と閻魔さまが登場し、みほとけが続くという構成から、地蔵菩薩のありがたさを目に見える形で伝えようとするものなのだと思う。その一方で、たくさんのお子さんが登場し、ご家族がお子さんを応援するという微笑ましい練供養でもあった。加持祈祷あり、餅巻きあり。地蔵菩薩さまを讃える信仰促進と庶民の楽しみが結びついた素晴らしい行事だと思った。八尾地蔵練供養の歴史は比較的新しく、明治末期以降だという。お子さんが泣いてしまう、鬼さん登場の練供養。これからも末長く続きますように。

【参拝案内】
初日山常光寺(臨済宗南禅寺派
〒581-0003 大阪府八尾市本町5-8-1
TEL 072-922-7749