ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【展覧会】出雲と大和展1回目感想(大寺薬師四天王立像と矢田寺十一面観音立像)

出雲と大和展 2018.1.15-3.8(東京国立博物館
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 出雲の某寺で、「うちの仏さん、オリンピックの年に東京に行くよ。もう予約入ってるから」と、大変な情報リークを受けたのが、2017年11月。

 あれから2年あまり。2020年1月15日にようやく展覧会が始まった。その名も「出雲と大和」展。

 さっそく最初の土曜日に行ってきた。これから何度か行くと思うが、まずは、1回目の感想として、大寺薬師の四天王立像と矢田寺の十一面観音立像がどれだけ好きかを書きたい。(※なお、一部の仏像に大きく偏った内容となるので、ご注意いただければ幸いです)

大寺薬師の四天王立像(島根県出雲市

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 2017年に島根県立古代出雲歴史博物館で、県内の平安仏ばかりを集めたとんでもない展覧会(「島根の仏像」展)が開催されたのだが、その際に、この四天王立像も本尊薬師如来坐像とともに出陳された。
 私はこの展覧会を観に行く際、大寺薬師さまをお参りした。展覧会に出陳された5躯以外にも、平安の菩薩立像が4躯もおられると知ったからだ。
 大寺薬師は今は無住となっており、地元の大寺薬師奉讃会が管理する。近くに住む管理者の方に事前にお電話でお願いし、鍵を開けていただいた。「メインの仏像が展覧会に出ているのにわざわざ東京から来てくれるなんて…」と、大変歓待してくださった。お寺や仏像の伝来など、たくさんお話させていただく中で、飛び出したのが「オリンピックイヤーに東京へ」という一言だった。
 帰ってから、しばらく悩んでしまった。ものすごい情報を得てしまった。地元では秘密ではないのだろうが、東京では公式情報が出ていない。つまり、私からSNS等で発信するのは控えるべきだと思った。そうすると、何が起こるか。外に発信できない分、自分の中で妄想が膨らむのである。
 「オリンピックイヤーに東京へ」というテキスト情報と四天王様のかっこいいビジュアル情報のみが私の脳内に残された結果、この四天王様がスポーツで激しく戦っているシーンが繰り返し夢想される事態となってしまったのである! 四天王初のオリンピック選手の登場である。
 脳内オリンピックを何度となく観戦したのち、ついに、「出雲と大和」展で四天王様に再会した。
 やはりとてつもなく躍動感がある! 
 これはオリンピックで大活躍するに違いない!! 
 実際には木彫仏なのであって、動くはずはないのだが、そのお姿を拝む私の頭の中では、すべての四天王様が激しく動き出すのだった。
 夢想する中では、四天王様の持つ戟がアイスホッケーのスティックに見えたこともあった。しかし、しかし…。久しぶりに再会した四天王様はやはり、衆生をお救いになるお姿だった。しかも、四人そろって嬉々として助けに来てくれそうな感じさえした。私はとても安心した。オリンピックに出たら、金メダル間違いないとは思うが…!
 今回の展示会場では、広いスクエアの空間の四隅に一尊ずつを配置した構成も素敵。大勢押しかけても、近くで拝観できる。
 大寺薬師の管理者の方にまたお電話したくなってきた。「四天王さん、東京でもカッコよいですよー」と、電話口で叫びたい私である。出陳ありがとうございます。

矢田寺の十一面観音立像(奈良県大和郡山市

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 大寺薬師の四天王立像とは対照的に、直前まで情報が入ってこなかったのが、矢田寺(金剛山寺)の旧本尊十一面観音様だった。
 矢田寺本堂の大きなお厨子の中、現本尊の地蔵菩薩立像の左隣りにお立ちの観音さま。基本的に毎年6月のみのご開帳である。数年前に地蔵菩薩さまにお会いしにいったのだが、お隣のこの十一面観音に心を奪われてしまった。かわいいのに上品で、上品なのにセクシー。8世紀後半のこの桐の木彫仏には、乾漆像のような瑞々しさと柔らかさがある。
 お寺では、お厨子の中におられるため、全身を拝むのは難しい。かがみ込んで、下から覗き込んだりして、”あやしい人”になってしまう。ところが、この展覧会では、すぐそばから全方向からお姿を拝むことができた。いわゆるサンロクマルである。

 この十一面観音様は「天平」展(1998年奈良国立博物館)にも出展されていた。この図録にも、今回の「出雲と大和」展覧会図録にも、条帛に木屎漆の盛り上げがうんぬんと書いてある。気になる。前から気になっていたが、さらに気になる。条帛部分はすべて木屎漆なのだろうか。目を凝らして観る。胸の下の条帛部分、少し波打ちながら盛り上がっている。細かいヒビも見える。これが木屎漆なのか!? 

 そして、初めて背面を見てびっくり! この焦げたようなあとはなんなのか。背面の条帛は焦げている? 後頭部も焦げてないか?? 暴悪大笑面はお顔の表面が削られていて、表情が伺えない。化仏は後補? 後ろから観るお姿は想定とかなり異なっていて、ドキドキしてしまった。

 矢田寺十一面観音の大ファンの一人として、照明の当て方は少し不満だった。斜め横から照らしてしまうと、のっぺり見える感もぬぐいきれず…。しかし、何時間でもその前にいたいと思える素晴らしい観音様であることに変わりない!! 

 私はこの日、2回に分けて合計2時間、十一面観音様の御前で過ごした。好きすぎるので、またお会いしに行きたい。繰り返しで恐縮だが、かわいいのに上品で、上品なのにセクシー。好きで好きでたまらない観音様なのであります!

写真について

・展覧会ポスターは2019年の年末に都内の駅で撮影。
・大寺薬師の四天王立像の写真は、「仏像 一木にこめられた祈り」展(2006年東京国立博物館)というマニアックな展覧会の図録より。
・矢田寺十一面観音立像の写真は、「天平」展(1998年、奈良国立博物館)の図録に掲載の写真を紙にプリントし、昨年6月に矢田寺本堂前にて撮影したもの。この写真をこうやって常時持ち運び、頻繁に引っ張り出して眺めていた。