ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

【東京都豊島区】駒込の勝林寺で田沼意次侯 生誕300年宝物展

【参拝日】2019年9月23日(秋分の日)
【お寺】万年山勝林寺(東京都豊島区)
【拝観】
田沼意次侯 生誕300年宝物展
○御本尊釈迦如来坐像(9世紀の一木造り、区文化財
(今回はいつもとは違って、江戸時代の歴史と絵画のお話がメインです)

 お彼岸のお参りで賑わう染井霊園を抜けて、東京駒込の勝林寺様をお参りした。
 江戸中期の老中・田沼意次(1719-88年)の菩提寺である勝林寺様で、9月23日、田沼家ゆかりの絵画や書が公開されたので、拝見させていただく。
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 かつては賄賂政治家として知られた意次。しかし、貨幣の統一や長崎貿易の拡大など、商業政策を進めた手腕と功績が再評価されていると聞く。
 今年は意次生誕300年。意次の領地だった静岡県牧之原市から貴重な文化財16点が東京の勝林寺様に運ばれ、一日限りの出張展示が行われた。しかも、牧之原市資料館の学芸員さんの解説付きというありがたさ。

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 展示はまず、上(↑)の牧之原市の広告に掲載の絵から始まる。鈴木白華写「田沼意次肖像」である。複製画ではなく、もちろん原本がお出ましであった。若き意次が姿勢を正して、前を見据える姿。その眼差しから頭脳明晰であったことが伺える。歴史の教科書などで、よく使われる画像だそうだ。

 狩野典信(かのう みちのぶ)「田沼意次侯領内遠望図」は大きな横長の画面構成で、おそらく遠州相良城内に掲げられたものではないか、とのこと。

 上記2点とも牧之原市資料館では普段はレプリカ展示されているそうで、都内で原画を拝めるとは申し訳ないくらいだ。

 さらに、江戸幕府第10代将軍徳川家治が自ら描き、田沼意次に贈った絵画も展示されていた。現在個人蔵となっており、まだほとんど世間に知られていないものだそうだ。

 牧之原市からバスツアーを組んで来られたご一行様もおられ、田沼意次が結ぶご縁に感服せざるを得ない。一つのお寺で、これだけの文化財がたった一日だけ公開されるという前代未聞の貴重な機会だった。田沼意次のさらなる研究と名誉回復が一段と進むことを願ってやまない。

 最後に、御本尊様に言及せずに筆を置くことはできまい。勝林寺のご本尊様は9世紀に遡る貴重な釈迦如来様である。お寺様とのありがたいご縁により、何度となくお参りさせていただいている。
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 今回お参りしていると、牧之原市のツアーの皆様がちょうど入ってこられ、住職のご指名によって急きょ仏像解説をさせていただくことに。彫刻史の観点から貴重なことだけでなく、先々代の住職が命がけで空襲から守られたことをお話した。
 平安前期、おそらく近畿の都に近いところで制作されたであろう御本尊様。それがなぜ江戸に創建されたお寺に伝わるのかはわかっていない。田沼家の力が動いたのかどうか検証できる日は来るのだろうか。