ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

海老名市・龍峰寺の長身かつ清水寺式の千手観音立像

 神奈川県西部、海老名駅から徒歩15分ほど。巨大なすべり台のある清水寺公園に隣接して、龍峰寺(りゅうほうじ)はあります。1340年、開山円光大照禅師によって創建された、臨済宗建長寺派のお寺です。

 このお寺の千手観音さまにお会いしてきました。毎年1月1日と3月17日にご開帳です。

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192センチ。榧の一木造りで、42本の腕には桧を使用。なんと、頭上に2本の腕を掲げた清水寺式の千手観音立像! 重要文化財

奈良時代に遡る古いお寺に伝来

 実はこの観音さま、龍峰寺の創建より古いお像かもしれません。観音さまは元々、清水寺(せいすいじ)というお寺に伝わりました。清水寺は、相模国分尼寺にゆかりのある湧河寺を前身とし、源頼朝が1186年に千手観音像とともに復興。その後、1341年に円光大照禅師によって再建され、1699年に現在の地に移築されました。龍峰寺は清水寺以外にもいくつか末寺がありましたが、明治の初めにすべて廃寺となり、清水寺観音堂だけが龍峰寺の一部として残りました。清水寺観音堂(水堂)は1989 年に解体修理がなされ、今は龍峰寺の仏殿として使われています。

 龍峰寺の周辺の地名は国分。奈良時代相模国分寺と国分尼寺が建てられ、古くから仏教文化が栄えたことが伺えます。また、湧河寺、清水寺、水堂という名前から、水と関係の深い場所であることも推測できます。

 そんな地域に残された観音さまは現在、水堂の後ろに建てられた収蔵庫に大切に安置されています。
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平安と鎌倉の特徴が混在

 改めて、観音さまのお姿を見てましょう。まず、2メートルという長身で、しかも、清水寺式。頭上に伸びる腕。しびれます!
そして、仏像好きな方であれば、ご尊顔と下半身との表現の違いが気になるのではないでしょうか。
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 丸みのあるご尊顔は頬に張りがあり、玉眼をはめています。鎌倉時代の特徴を示します。
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 一方、このお像は榧の一木造りで、下半身の衣紋は鑿のあとが立った激しい表現になっています。翻波式衣紋など、平安前期の特徴を表しています。
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 この二つの特徴から、古い像が鎌倉時代に補修されたか、または、旧本尊に倣って新たに再興された像なのではないか、と言われています。つまり、制作年代は専門家の間でも議論が残っています。謎に満ちた観音さまです。

 今回のご開帳では、堂の外からしか拝観できていません。いつか間近で背面や横のお姿を拝ませていただければと思います。制作年代のミステリーに思いを馳せながら、観音さまの周りをぐるぐる回らせていただく機会を待ちたく存じます。

【追記】2020年10月「相模川流域のみほとけ」展に出陳され、間近で拝観できました。しかも、榧の一木であることや聖林寺十一面観音立像との類似から、奈良後期から平安前期に遡る可能性が指摘されていました。年代順に仏像が展示されたのですが、この龍峰寺像は展覧会の最初にどどーんとお出ましです。間近で拝観し、さらに好きになりました。→【展覧会】「相模川流域のみほとけ」神奈川県立歴史博物館は必見 - ぶつぞうな日々 part III


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 3月17日は観音さまのお祭りで、次々に参拝者が訪れていました。余興と少しの出店もあり、ご近所の皆様が楽しみにされている様子が伝わってきました。春のお花も咲いて、穏やかな空気が満ちていました。
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他の文化財

 山門の仁王像と観音堂(水堂)が海老名市の文化財に指定されています。
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(柵とガラスに阻まれ、撮影は困難でした)

 水堂には、千手観音立像を模した小さめのお像がまつられていました。室町時代の作だそうです。

 なお、龍峰寺本堂は水堂の横に建てられています。本尊は釈迦如来坐像と迦葉・阿難像とのことですが、お参りはできませんでした。

【参拝案内】

龍峰寺
〒243-0406 神奈川県海老名市国分北2丁目13-40
小田急相鉄線海老名駅より徒歩15分
相鉄線の線路沿いにしばらく歩いて踏切を渡ると、清水寺公園の入り口の看板がある。公園方面に急な坂道を登る。清水寺公園の奥に山門が見える。
公開は1月1日と3月17日。
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(↑住宅地を見下ろす高台にお寺はあります。丹沢の山々が遠くに見えました)