ぶつぞうな日々 part III

大好きな仏像への思いを綴ります。知れば知るほど分からないことが増え、ますます仏像に魅了されていきます。

雲南市・禅定寺の阿弥陀如来坐像~優しい番長さんw~


古代出雲歴史博物館の「島根の仏像」展。前回の記事で書いた安来の清水寺の十一面観音立像で腰が抜けるほど仰天した私ですが、その先にさらに、素晴らしい仏像の数々が並んでおられました。

「島根の仏像」展のツートップは、出雲市万福寺(大寺薬師)の薬師&四天王像と、松江市・仏谷寺の薬師&四菩薩像でしょう。この戦隊ゴレンジャーのごとき二組が、ガラスケースに入ることなく、どどーんと構えるところが、この展覧会の目玉かと思います。この二組が隣同士に並ぶということは、業界的に(!)大事件かと思います。

でも、それだけではないのです。

大寺薬師の広目天さまに睨まれたり、仏谷寺のニットキャップ如来(後述します)やツンデレ顔の菩薩像(後述しきれませんw)にノックアウトされながら、なんとか展示会場を進むと(注※)………

第一会場の一番奥に、雲南市・禅定寺の阿弥陀三尊さまがおられました。

穏やかな観音勢至菩薩像も素晴らしいのですが、特に惹かれたのが中尊の阿弥陀さまでした。

雲南市・禅定寺の阿弥陀如来坐像

135センチ。10~11世紀。一木造り。県指定文化財
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事前知識なくお会いしたせいかどうかはわかりません。とにかく、あまりに独特な阿弥陀さまのお姿を目の前にして、私は意識が飛びそうになりました。

まず、なんなのでしょう、この両胸の渦巻き模様は。右胸に、くるりん、くるりん。そして、左胸にも、くるりん、くるりん。左右の胸に二つずつ、唐突に浮かび上がっています。

渦巻き模様は、飛鳥の橘寺の日羅立像のように、平安前期の激しく強いお像でお見かけします。しかし、この阿弥陀さまは、お顔も穏やかですし、全体的に激しさを感じません。

さらに目を引くのが、首回りにぐたっと立てた襟です。まるで制服を着崩したツッパリ番長のようです。いわゆる、不良です。こんなに穏やかなお顔の阿弥陀さまなのに、もはや、阿弥陀番長にしか見えなくなってきます。

平安の古仏に見られるあやしい渦巻き文も、制服に落書きしたように見えてきました。

たっぷりとした量感。幅の広いお鼻。愛さずにはいられません。お優しい阿弥陀さまの番長です!

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襟立ちの如来さま

ちなみに、先ほど言及した松江の仏谷寺の薬師如来坐像も襟が立っています。
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こちらも強烈な印象です。肉髻部と地髪部に明確な段差がなく、なだらかなところが特徴で、ニット帽をかぶったようになっています。天台宗で見かける表現だと指摘する専門家もおられるそうです。

同じ「襟立ち如来」ですが、こちらの方がお顔も厳しく、禅定寺の阿弥陀さまとは印象が大きく異なります。仏谷寺は厳しい仏さま。禅定寺の阿弥陀さまは、もっと庶民に近い感じがします。


禅定寺の縁起とご本尊の聖観音立像

この阿弥陀三尊がおられる禅定寺は、天平年間(729~748年)に行基が開山したと伝わります。聖武天皇の勅願所だったとされる天台宗の古刹です。

なお、こちらのご本尊は聖観音菩薩立像。平安時代の一木造り。228センチの堂々たるお姿で、国の重要文化財に指定されています。
天候不順で飢えに苦しむ住職を救おうと、自らイノシシに身を変えて与えたという伝説が残るそうです。なんと、33年に一度の秘仏ですが、こちらも展覧会にお出ましでした。なんともありがたいことです。 
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禅定寺さまの次のご開帳のときにお参りしたいです!


注※ 他にも立ち止まらざるを得ないトラップ(=つまり、魅力的な仏像さまたち)は、たくさんおられたのですが、ここは心を鬼にして、あえて省略することをお許しください。どのお像も独特で素晴らしすぎました。

※ 写真はすべて「島根の仏像」展の図録からです。